FC2ブログ
    立川談春師匠の紺屋高尾が好きすぎて、その語りを文章化しました。おかげで私の三連休は消えた。
    何のために書いたかって、そら覚えるためですね。
    うん、きっといつか覚えるさ。覚えるのかな。覚えたところでどうするの。覚えてから考えよう。




    I love you という言葉がこの国に初めて入ってきたときに二葉亭四迷という人が「あなたとならば死んでもいい」と訳したそうであります。そんな時分のお話で・・・

    久蔵:おはようございます。おはようございます。
    親方:はい、誰? おお、久蔵じゃねえか
    久蔵:おはようございます
    親方:何だい?
    久蔵:いえね、ええ、えーっ、色々親方にご心配頂いたんですけどね
    親方:うん
    久蔵:この度あっしは所帯を持とうと思うんですよ
    親方:ええ? お前が? かみさん貰うの? 所帯を? おお、いいねえ。結構だ。おうおうおっかあ、ええ、お茶入れてやれ朝一番いい話だなあなあおい。なんだ、そうか、お前かみさん貰うの、俺ぁ心配してたんだお前はな職人の癖に変に堅ぇしな。どうなってるんだと。ちゃんといたんだそうかよかったじゃねえか。えぇー? 俺が知ってる女か?
    久蔵:いや、知らないと思います。
    親方:知らねえのかい。どこだい、どこの女。
    久蔵:あの、吉原の・・・女ですね。
    親方:へぇー、えぇー? 吉原の女だ?ふーん、ちゃんとすることはしてんだな、うん、どこのなんて女だい?
    久蔵:三浦屋の高尾って言うんですよ。
    親方:へぇー、三浦屋の高尾、へぇー、み・・・え? 三浦屋の高尾聞いたことあるな、三浦屋の高尾? え? それお前なに? 高尾太夫か?
    久蔵:はぁーそうなんすか。あ、じゃあれ名字が高尾で名前が太夫って言うんですか?
    親方:世の中に太夫なんて名前の奴がいるわけないだろ。おい、お前誰をかみさんにするって?
    久蔵:三浦屋の高尾太夫です。今覚えました。
    親方:馬鹿なこと言ってるんじゃないよ。くだらねえことを。第一、なんで三浦屋の高尾太夫なんて知ってんだよ
    久蔵:あのですね、昨夜(ゆんべ)、兄弟子がおめえは職人のくせに変に堅ぇんだからね、そんなことじゃしょうがねえんだ。ねっ、ちょいとついて来い。なんて言われて吉原に行ってね、あの花魁道中っつーの、見たんですよ花魁道中
    親方:そうだ、花魁道中な、あぁ。
    久蔵:生まれて初めて吉原の大門くぐりました。
    親方:聞けば聞くほど話が変だね、おい。それでどうしたの
    久蔵:でね、花魁道中っつーの見たんです。そしたらですね。綺麗な人が出てくるんですよ。沢山。
    親方:そらそうだよ。
    久蔵:その中でね一番きれいだったんですよ。ええ。あの人なんてんですかっつったら、三浦屋の高尾ってんだ。ああそうですかってピューってんで決めました。
    親方:おい、受け付け変わってくれお前、頭おかしいんじゃねえの? そら綺麗だよ。あたりめぇだお前なぁ、あの三浦屋の高尾太夫ってのはな、吉原ってとこは遊女三千人御免のっつーんだお前、ね? そこでもって全盛なんだよ
    久蔵:へ?
    親方:分かんねえか。三千人いる中でもってな、一番、一番男の気を惹くというかな、うん。だから、一番、人気があるんだお前。男なら一度は、なっ、それくらいに凄い人なんだよ、うん、綺麗なだけじゃねえんだ。頭もいいんだよ。
    久蔵:はぁー、そうですか、ええ。そういう人をかみさんに持てばあっしは幸せですね。
    親方:お前頭おかしいんじゃねえのか? こんちきしょー、馬鹿じゃねえのか? いいか? 字で書くとな、傾城傾国っつーんだよ。分かんねえか。国を傾ける城を傾けるって書くんだよ。
    久蔵:力持ちなんすね
    親方:大名堂無っつーんだ。聞け、ちゃんと最後まで。いいか? 大名堂無っつーの。分かる? なっ、入り山形に二つ星松の位の他夕食っつんだよ。うん、大名と、大名としか遊ばないってのかな。余程銭持ってる大家の商人ってんだったら、まあ相手をしねえことはねえだろうけど、いいか? それだって違うんだよ? なっ、行くだろ? 行ってな、会いたいってなこと言うんだ。うん、高尾がぷいと横を向いちまうだろ。うん、そうするってえとしょうがねえ会ってもらえねえわな。会ってもらえねえけど、おめえ大名ございますってんで面下げて行ってだよ? 持ってった銭を山と積んだ銭をだよ? 会ってくれねえなら持って帰りますってわけにもいかねえだろ。置いていくんだよ。また行くよまた振られるよ。えっ、何度かやっている内にはようやく会ってもらえるようになる。ねっ、高尾の馴染みになるの。高尾に名前を呼んで貰えるようになる頃にはすっかり銭使い果たしちゃって国が傾いちゃってる城が傾いちゃってる。それくらいに、その今の言葉でなんてんだ。魅力ってのか? そういうのがある女なんだよ。
    久蔵:ですよねー! あっしが惚れんのも無理はねえんですよ
    親方:なんで目ぇ輝かすんだ馬鹿。で、言ってるじゃねえかこんちくしょう。んなもの無理に決まってんだろうよ。
    久蔵:えぇ?
    親方:だから及ばぬ恋の滝登り松の位の他夕食。住む世界が違うんだよ。
    久蔵:ああ、違いますよ親方。
    親方:何が
    久蔵:何がじゃねえです。あっしね、これから吉原に出かけてってねぇ、そんでもって高尾とねなんだこうだあーだ、あっ、そう、あのね、だからそういうんじゃないんですよ、そういんじゃないんです。そのね、色だとか恋だとかそういう浮ついた気持ちじゃありませんから。これからあっしはね、吉原行きますから。で、三浦屋ってとこに行ってね、、で、まあまあ親方がそう言うんですから色んな人が止めるんでしょ? そんときは親方、あっしを身を呈して庇って、こいつはそういう浮ついた気持ちじゃねえんだと。色だとか恋だとかそういうんじゃねえんだ。こいつは所帯を持ちたいんだからこいつは通してやってくれってんであっしがようやく高尾に会って、ニッコリ見つめあって
    親方:帰れ馬鹿こんちくしょう。何言ってやがんだ馬鹿。お前ね、駄目だよそんなの。
    久蔵:あのね親方
    親方:何?
    久蔵:あっし綺麗だから惚れたわけじゃないんですよ。
    親方:ほぉー、凄いこと言うね。綺麗だから惚れたわけじゃないの。ほぉー、何で惚れたの?
    久蔵:なんで惚れたってねぇ、あのねぇ、こう歩いてるときにこう綺麗な人だなぁっと思ってこうやって見てたんです。そしたら目がパッと合ったんです。合ったらあっしに向かってニコッと微笑みかけてくれだんです。あの人ね、器量がいいだけじゃないです。きっと、心も綺麗な人だと思います。だから、この人ならって、こんな親切な人ならと思って、あっしは決めました。揺らぎません。
    親方:揺らげよ。何を言ってやがんだべらぼうめ。分かった分かった分かった。ちょっと待て考えろ。うん、あのな、いいか? お前に俺がこれから言うよ? なっ、俺が明日から将軍様になるつったらどうする?
    久蔵:笑います
    親方:そうだよな、そりゃ笑うよな。笑ってくれりゃいいや。おめえ俺のこと知ってっから笑ってんだ。なっ、見ず知らずの前で俺がいきなり会ってよ、あたし明日っから将軍様になるんですですけどつったら馬鹿だこいつはって相手にしねえだろ。
    久蔵:でしょうね
    親方:いいか、高尾に会うなんてのはな、俺が将軍様になるよりもっと無理なことなんだよ。
    久蔵:えぇ? なんで?
    親方:言ってるだろ。住む世界が違う身分が違う。向こうは入り山形に二つ星松の位の他夕食。えぇ? こっちは紺屋の職人風情だ。鮒のかく乱鯰の脚気、恋の病で恋煩いって、どうしようといいけどそんなもの無理に決まってっから言ってんだい。
    久蔵:人が人を好きになるってのはその身分とか
    親方:なあなあなあ、そんな青臭ぇとこ言ってんじゃねえ。子供みたいなこと。なにをどう言おうといいから、これだけ覚えといてくれ。なあ、いいか? 俺が死ぬまでは、俺が死ぬまではというかお前が死ぬまでは世の中変わんねぇよそんなこと。お前は、いいか? 吉原に行って高尾に会うこともできない。会うこともできないからお前は名前も覚えてもらえない。名前も覚えてもらえないぐらいだから所帯なんか持てるわけがない口をきくこともできない。それを覚えとけ。俺いままでお前に嘘言ったことあるか?
    久蔵:あああ・・・ありません
    親方:ねえだろ? くだらねえこと言ってんじゃねえ。夢みてぇなこと考えてねえでさっさと飯食って働け! 分かったな?
    久蔵:失礼します・・・

    そのまんまとんとんとんと二階に上がっちゃった。

    小僧:親方!
    親方:おう
    小僧:久蔵の様子が変ですね
    親方:なんだい
    小僧:何だか知りませんけどね、今日で仕事三日降りてこねえですよ
    親方:どっか具合が悪いのか?
    小僧:何だか知りませんけどね、患っているっていうな、身体が悪いってそういうわけじゃねえみたいなんですけどね、ええ、飯も食いませんね。夜も満足に寝てねえみたいですよ?
    親方:一番良くねえじゃねえか ええ、しんぺえじゃねえか おお、お滝よおい、久蔵どうしたんだい
    女将:はぁ? どうしたんだ? おまえさんも鈍いね。よくそんなこと言うねおまえさん馬鹿じゃないの?
    親方:なに?
    女将:なにじゃないだろうよ。例の一件だろう。
    親方:何だ例の一件って。
    女将:何を言ってんの。三浦屋の高尾太夫のことじゃないの?
    親方:えぇ? あの馬鹿まだそんなこと思いこんでんの?
    女将:そうだよ。
    親方:あ、あいつはおかしいよ。
    女将:あのね、お前さんね、おかしいおかしいって簡単に言うけど、自分のこと思い出してごらん? あの子うぶな子なんだよ? 初めて女に惚れたんだよ? えぇ? 男が初めて女に惚れた時は命がけだろ? うん、わき目も振らずに一直線になるもんなんだよ。 そうだろ? 煩ったってしょうがないだろ。
    親方:煩たってしょうがないだろって、どうどうどうすんの?
    女将:どうするのって簡単じゃないかね、高尾に会わせてあげるってそう言やいいんだよ。
    親方:お前よくそういうこと言うね。お前、そんなこと言ったらあんな奴だから本気にしてあてにしてあとでとんでもないことになるよ
    女将:だから子供なんだよお前さんは嫌になっちゃうねえ。
    親方:何が嫌になっちゃう
    女将:何が嫌になっちゃうってお前さん何かい? 初めて惚れた女と一緒になった?
    親方:お前また答えづらいことはっきり言うね。
    女将:顔も忘れちゃってるだろうよ。
    親方:面影ぐらいは覚えてるよ。
    女将:だろ? はしかみたいなもんなんだよ。高尾だよ相手は。ええ? 会うには大変なお金がいるって言えばいいの。ねっ、一所懸命働けって、大変なお金を言やいいんだよ。一所懸命働いているうちにあの子はね、元気な男なんだよ? そんな会えるか会えないか分かんないような女にね生涯惚れられてるわけないじゃないか。えぇ? そうだろ? 脇を見てごらんよ。そこら辺にいいのがいるんだねぇ。伸ばせば手の届く華が。なぁー、そうなったらあたしの出番だね。あっはっはっ、誰がいいかね、久ちゃんはね。腕も立つしまじめだしね。えーっ、どこの子に町内の子だったらあの、糸屋
    親方:お前やり手ばばあかお前。じゃあ、俺言ってくるよ。いいのか本当に。大丈夫か。お前が言ったんだからな。
    女将:大丈夫だよ。
    親方:よっこいしょ、よいよいよいよいよいっと(階段を上る) 開けるぞ。よいしょー。久蔵、久・・・なんだ、どうした。んにゃろー、起きろ起きろほら、面見せてみろ。どうしたんだい。
    久蔵:それが・・・
    親方:どうしたんだよ。
    久蔵:あの・・・
    親方:なんだはっきり言え。
    久蔵:その・・・うぅ・・・親方嘘言ったことねえ人ですから、あっしは高尾太夫に会えねえんだと思ってそれで忘れなくちゃいけねえ働かなくちゃいけねえと思って上にあがっておまんま食おうとおもったんですけど茶碗が・・・
    親方:茶碗が?
    久蔵:おまんまよそおうと思ったら茶碗の中から高尾があっしに向かってにっこり微笑みかけるんですよ。もう並に食えねえと思って直ぐ横になって寝たんですが・・・天井の節穴がだんだん広がってって高尾になるんですよ。にっこり微笑みかけるんですよ。いけねえと思って目瞑って寝ようと思うと、瞼の裏にはっきりと高尾の微笑みが
    。あれ? だんだん親方の顔が高尾に・・・高尾おぉぉぉ!!
    親方:近づいてくるんじゃねえよこんちきしょう!! お前な、恋煩いなんぞおめえみたいな職人がなるような病じゃねえんだお前、ええ? お前、大家の若旦那とかお譲さんとかそういうのがなるんだよ。お前、本当に。出ねえ声で一所懸命探して歩くとかそういうもんなんだお前。何甘ったれたこと言ってやがんだ馬鹿こんちきしょうふざけやがって。ええ? 会いてえのかい? なに? お前会いてえんだったら売り物買い物上臈じゃねえかいくら銭かかるか分かんねえけども銭持ってきゃ会えるよ会やいいじゃねえか。
    久蔵:本当ですか?
    親方:はい?
    久蔵:会えるんすか?
    親方:会えるよ?
    久蔵:会います
    親方:会いますっつうけど、お前ちょうだいなつって持ってって買えるようなそういうような銭じゃねえんだぞ? 大変な銭だぞ?
    久蔵:幾らかかるんすか?
    親方:そうだなあ、一晩渡すんでどう安くみつくろたって十五両。
    久蔵:え? え? えっ? 十五両?
    親方:ほら見ろがっくりして肩落としやがった。十五両な、諦めるか?
    久蔵:諦めやしませんけど、そんなお宝見たことありませんから、あっしにそんな金貯められますか?
    親方:貯められるよ。おめえ一人前以上の腕してるじゃねえか。無駄もしねえ酒も飲まねえ。なっ、うん。必ず貯められる。貯められるけど、無駄もしねえ腕もいいお前がな、三年。三年。いいか、夜も寝ないでってそれぐらいの了見でもって働きゃ三年ありゃ十五両貯めさせてやるよ。なぁ? どうするよ。三年働いて十五両だぞお前、えぇ? 諦めたほうがいいじゃねえか?
    久蔵:三年働いて十五両貯まったら高尾に会えるんですね?
    親方:へ?
    久蔵:三年働いて十五両貯まったら高尾に会えるんですね。
    親方:おう
    久蔵:寝てる場合じゃありません
    立ちあがってぺっぺっぺっぺぺぺーと台所飛び込んで鮭の茶漬けを十三杯食って、よーし働くぞーってんでこれから働きました。三年働いて十五両貯まったら高尾に会える。三年働いて十五両貯まったら高尾に会える。三年が十五両。十五両が三年。高尾が十五両。三年が十五両ってうるせえのなんのってね、三日ばかり経ったらぴたっと何も言わなくなっちゃって、静かになっちゃって
    小僧:親方ー!
    親方:おう
    小僧:久蔵が変ですよ
    親方:またかおい。何だい。
    小僧:なんか三年とか十五両とか高尾とかね、何にも言わなくなっちゃいましてね。
    親方:言わなくなるのがあたりめえなんだよ。いきなり静かになんのも気になるわなぁ。お滝よお、静かになっちゃったよ、どうしたの?
    かみさん:だから言ってるじゃないか、頭のいい子なんだよ。このまま一所懸命働いたからってね、高尾に会えるってね、そんな証何にもないんだよ? ねっ、もうちょっと待ってるとね、そろそろ脇の女の子に目が移る頃だよ。ふっふっふっふっ、誰にしようかねぇ。
    親方:やめろその目。ほっぽいといていいのか? ああ、そう、分かった。おう、うちのおかあほっぽいといていいって言ってっからそっとしとけ。
    小僧:へい分かりました。
    あっという間に時は流れまして三年経ちましてな
    久蔵:おはようございます!
    親方:あい、誰だい? おう久蔵じゃねえか、おう。
    久蔵:おはようございます。
    親方:はええな。
    久蔵:あの、今日一日休みを貰い
    親方:ああ、聞いてるよ。お前一所懸命働いてもらってな、俺がぐずぐず言ってるようじゃしょうがねえよ。おめえみてえに根詰めて働かれるとかえって俺は気になるよ。身体壊しゃしねえかと思って。えぇ? 聞いたら三年ぶりの休みだって? まぁ、よく働いてくれてありがてえわな。うん。まあ、いいけどよ。でー、あの、小遣けえ貰うんだったらな、一分でも二分でもおばさんに言ってもらってきな。いいよいいよ、ゆっくり骨休みしてこい。
    久蔵:ありがとうございます。じゃ、親方に伺いてえんですけど
    親方:おう、なんだい?
    久蔵:ずっとお給金貯めて預けてあると思うんです
    親方:おうおうおう
    久蔵:幾らぐらいになりましたかね
    親方:それだ(手を叩いて) 人間て妙なもんだな。えっ? なんかなー、そんな気がしたのかな。ゆんべかかあと二人で寝つからねえんだよ。あぁ、それから算盤入れてみたらね、驚いたねおい。幾らあると思う? 十八両と二分だよ。塵も積もれば山って、おめえの給金塵つっちゃ悪いけどな、十八両と二分だ。いやいやいや、喜ばねえで、こっから俺話があるんだいいか聞け。なっ、おまえ三年で十八両と二分貯めたんだ。あと1両二分貯めろ。そうすると二十両って金が纏まるだろ? そうするとな、おめえが二十両貯めると俺が嬉しさの着物をお前にこしらえてやる。それ着てな、二十両持って国に帰れ。かずさ港だつってたな、おとっつあん早くに亡くしておっかさんが一人で暮らして兄貴が面倒みてるつってた。そのな、おっかさんの前にな、二十両前に出してやるんだ。ねっ、小遣い渡してやれ。赤の他人に貰う千両万両より実の倅に貰う二十両。親はどんだけ嬉しいか分んねえ。なっ、きっと涙流して喜んでくれるよ。でっ、お前はそのまんまかずさ港、故郷でな、ずーっと暮らしていくってそれもいいよ。それもいいけど、おめえだって長い間枝の風に吹かれてんだ。えぇ? どうも田舎は退屈だなっと思ったら、どこにも行かないで一本槍でもって家に戻ってこい。そうすってえとな、生意気なこと言うようだけどな、おめえに嫁貰ってな、俺たち夫婦、楽隠居って隠居させてもらって、夫婦養子ってことにしてな、うん。俺はおめえのこと好きだ。腕もいいしな、親切だし嘘つかねえし真面目だし。他の者には他のものでまたちゃんとそれだけのことはする。ぐずぐず言わせやしねえ。分かったな、なっ。あと一両二分だ。二十両貯めて、すべての話はそっからだから。いいな! あと一両二分。三年で十八両と二分貯めたんじゃねえか。この野郎。一両二分ぐらいわけねえや、なっ! しっかり貯めろ、分かったな!
    久蔵:ありがとうございます!
    親方:よしっ!
    久蔵:親方、そのうち十五両使いたいんです。
    親方:今いい話したろ? おめえ何聞いてたんだよ。なんだお前、十八両と二分のうち十五両使っちゃうの。何すんの。
    久蔵:買うんです。
    親方:えっ?
    久蔵:買うんです。
    親方:そりゃそうだろうよ。買うんだろうよ。売るわきゃねえじゃねえか。何買うんだい。
    久蔵:へっへっへっ
    親方:いや、へへへへじゃくて、何買うのか言ってみろっつてんだ。
    久蔵:あっしの稼いだ銭をあっしが使うんですから、ぐずぐず言わないで渡して下さい。
    親方:この野郎! 生意気なこと言いやがってこん畜生! えぇ? やだやらねえよ。
    久蔵:なんでですか!
    親方:なんで親方って言うか考えてみろ。いいか? おめえの親代わりなんだよ俺は。だから親方ってこう言うんだよ。何買ったっていいよ? 何買ったっていいけど、あとでわけえ内ってのはくだらねえものに目が移るんだ、なぁ? くだらねえことで銭使っちまって、あんなことしなきゃよかったなってときにもう手遅れだからちゃんと俺にだけは話をしろってんだ。俺に話のできねえような金の使い方なら十五両どころじゃねえや。ただの一文だっててめえにはやらねえや。
    久蔵:あっしが稼いだ銭をあっしが使えねえんですか!
    親方:使えねえんだ。持ってんのは俺なんだからな。
    久蔵:要らねえや! 要らねえ!!
    親方:おう、お滝よ、銭入った。大金だ。十八両と二分だ。二人で草津の湯治場でもって
    久蔵:誰がやるっつったよ!
    親方:じれてんじゃねえよこんちきしょう。おめえの銭をねこばばするわけねえじゃねえか。言ってみろよ。言ってみろ。
    久蔵:・・・を買うんですよ
    親方:何?
    久蔵:高・・・を買うんですよ!!
    親方:鷹を買う? あれ危ねえんだ爪の先がこんなになって。光るものに行くんだ。目の玉までピューっと行くんだ。それならもっとかわいいのにしろ。目白とか十姉妹(じゅうしまつ)とかあんだろ。
    久蔵:あっしが三年の間寝ないで働いたのは三浦屋の高尾に会いてえ一心で高尾
    親方:分かった。(横を向いて)どうすんだよ。どうすんだよ。
    女将:あたしゃ知らないよ
    親方:ふざけんなこんちくしょう! 何が知らねんだい!
    女将:何が知らないって知らないよあたしは。ねえ、おまえさんが会わせてやるっつたんだからさ、ね。男なんだから会わせてあげれば
    親方:ふざけんなこの野郎! おいおいおい、久蔵久蔵久蔵、おい。お前何、三年。俺が一番よく知ってら。店の者も皆知ってるけど、寝ないで働いて貯めた十八両のうち十五両、高尾に一晩で使っちまっていいのか?
    久蔵:駄目ですか?
    親方:いや、でえすきでそんなん。俺は好きだよ? お前はいいのかつってんだよ。いいの? ああ、そう。いいけど、銭はあるけどな、銭はあるけどな、紺屋の職人じゃ駄目なんだよ。な、高尾に会うとなったらな、きちんとな色んなとこ格式ってんだけどな、通して通して通して、初めて会うんだ。これが俺が疎いんだ。弱っちゃったな。誰かいねえかな。おい、誰かいねえかな。この辺で吉原に詳しいっての。いねえか? え? ああ、あの裏にいる? やぶいちくわん? あれやぶだつってたぞ。え? やぶな分だけ? あ、お太鼓医者なのか。客のお供でもって? ああ、吉原よく行ってるもんで? 詳しい。それいいね、それ。呼んで来い。え? 表通る? あっ、先生!! 先生、先生、先生!! すいません!! ちょいと大至急!! こちらへ!! 急患急患!! 先生、急患!!
    医者:はいはいはいはいはいあーっさあさあさああーっ、もうご安心なさいあたしが来たら大丈夫。さっ、えぇ、じゃあ脈を拝見しましょう
    親方:いや、脈を拝見なんてそんな人殺しの真似ごとみたいなことしてもらっちゃ困る
    医者:なんですか?
    親方:なんですかじゃねえんですよ先生、えぇ、久蔵ってんですけどご存知ですか? そうですか。うちの職人なんですけどね、この野郎がね、恥ずかしい話なんですけどね、こともあろうにね三浦屋の高尾に思いかけましてね、でもって執念みてえに貯めた金がね十八両と二分。ちょいと二十両欠けるんですけどあるんです。どうしても会いてえってそう言ってるんですよ。えぇ、そんなの無理だってあっしは言ったんですよ。言ったらね、寝込んじまって、患いついちゃったんです。当人金貯めて今日やっと会えると思ってるんですよ。ここで会えねえっつうとね、またこいつ患いつくどころじゃねえんです。命にかかわるですよ。薬で病人治すのはいくらでも医者でいますけどね、如雨露界で病人治せるの先生だけなんですよ。先生は名医だって評判がいいんだ! お願いします。
    医者:妙な話ですな。久さん、お前さんなんだい。高尾太夫に会いたいの?
    久蔵:はい、先生! 会いたいです!
    医者:ああ、そう。で、親方これいつ行くんですか?
    親方:野郎今晩行きてえってはりきってんですけどね
    医者:ああ、そうですか。分かりました。今晩、あい畏まりました。あい、一緒に行きましょう。請け合います。
    親方:請け合いますって先生、お医者様ってのは病看見舞いとかあんじゃねえですか? 先生が待ってる病人
    医者:いいのいいの、病人なんかどうだっていいんです。病人というものはね、寿命で死んだり寿命で生きたりするんです。それを変に薬なぞ盛ってね、寿命をこう伸ばしたり縮めたり、これはね、神をも恐れぬ冒涜。
    親方:先生が言うと重みがあんね! (横を向いて)患ったらこの医者辞めろよ。 (前を向いて)どうしましょう
    医者:どうしましょうって言いますがな、親方は分かると思いますがな、どれだけお金があっても、久さん、紺屋の職人じゃ会わせちゃくれない。でね、えぇ、そうですね。こうしましょう、お前さんね、野田の醤油丼屋の若旦那ってことにするから、いいかい、でーその、親方の物は良い着物でしょうが、ちょいと地味目なんでね、若旦那に合うというそういう着物、髷の形も拵えて、えぇ、それで、夕方迎えに来ますんで、はい。形だけなりだけ拵えといてください。
    親方:へい、分かりました! 一つよろしくお願いします! おう、久蔵、こっちこい、えぇ? 俺が髷拵えてやるよ。
    女将:久ちゃん、こっちおいで。こんな着物はどうだろう
    ってんで普段が親切な人ですから、皆が寄ってたかって拵えてくれて、これは馬子にも衣装神形ってんで、ものの見事に若旦那風なのが一人できまして
    医者:えー・・・今晩は・・・
    親方:あっ、先生、お待ちしておりました。どうぞどうぞ。
    医者:はいはい、じゃあちょと失礼をいたしますよ。おお、久さん。こら見事なもんだな。立派な若旦那だ。あぁ。立派な若旦那はいいんだけどね、久さん、そこまで作ってくれたんならこっから力が入るよ。いいかい? 久さん、お前さんはね、その指を出しちゃ駄目だよ。藍色に染まった指先を見りゃね、ああいう里、廓、ねえ、ええ。こう勘の働く人が多いからお前さんのお里が知れてしまうから何があっても手はこう隠しておくんだよ。分かったね? いいね? 分かったね?
    久蔵:はい、先生の言われた通りにします!
    医者:それがいけなんだ。なんか喋っちゃいけないの。いいかい? お前さんね、あたしのことを先生なんて言っちゃいけないんだ。お前さんは主人であたしは家来なんだから。だからあたしのことはやぶい、ちくわんと呼び捨てにするんだ。分かったね? でね、あと、何か言っても駄目だから。向こうに何か言われたら、このまんまの形でもってあいあい、あいあいとこう言いなさい。重ね言葉といって大変に品良く聞こえるから。分かったね、いいね? 大丈夫だね?
    親方:大丈夫だな、久蔵、この野郎! しっかりしろよ!
    久蔵:大丈夫です
    医者:若旦那
    久蔵:はい、先生!
    医者:やぶい、ちくわんと呼ぶ捨てにしなさい。いいかい? 久さん、洒落や冗談で言ってんじゃないんでよ。お前さんの思いはお前さんの一言で駄目になっちまうんだよ? ちゃんと言わなきゃ駄目だよ?
    久蔵:ああ、分かりました。
    医者:若旦那
    久蔵:やぶやぶやぶ・・・
    医者:何?
    久蔵:やぶ医者
    医者:わざとだろ。 じゃあ親方行ってきます。
    親方:よろしくお願いします。おい、久蔵、おめえな、しっかりしろよ本当に! 振られんな!
    久蔵:いい天気ですよ?
    親方:先生、これですから。やんなっちゃうでしょ。一つよろしくお願いします。
    医者:あい分かった。じゃあ、久さん行こうか。
    久蔵:やぶい!
    医者:まだ早いよ
    神田御玉ヶ池紺屋六べえの家を出まして、そのまんま吉原へってんでお茶へ通されまして、で、もう先生の顔でございますから、さて先生、本日のお名指しはっとわっと騒いでいるところに女将がやってきて、女将、無理でもあろうが三浦屋の高尾太夫をと言われて、これは女将だってぷっと吹き出したくなるようなこれは馬鹿げたお願いです。吉原で全盛だっつってんですから、その日に行って会えるわけがない。ところが茶屋ですから、先生ほどのご通過様がご冗談ばかりと言ったんじゃ暖簾に傷がつくというんで、畏まりました。高尾太夫でござまいますね。ご無理でもございましょうがって一言が合って、そのままつーっと聞きに言ったら、なんと空いている。会うと。上々の趣味。
    高尾:いつもお堅いお客はんばかりで気が気が詰まりんす。たまにはそのような若旦那はんの相手がしとうござんす。
    と言うんで、白提灯に送られて、そのまんま連れていかれて、さあ、三浦屋へー。もう先生どっかいなくなっちゃって、高尾の座敷に久蔵が一人でもってとんと座らされて、あら、こんな厚い座布団何枚か重ねて、その上に座ったようなもんの、その頃の粋と勢と美と全部集めた、この吉原で全盛と言われた花魁の座敷の中へぽーんっと座らされてただ一人で待ってる。これほど不安なことはありません。うん、がたがたがたがた震えている。心のどこかで久蔵は高尾に会えるんだってのも余計身体の震えを強くする、そのうちに結構な香の匂いが立ち込めてくる。かものに敷かれた高尾が衣擦れの音と共につっと開けて入ってくると、これが礼儀の横っ座りをして、こう煙草を吸って、主一服吸いなんしと出してくれた。誰が考えたってこれは吸いたいです。ところが吸えない。手え出しちゃいけないって言われた。でも吸いたいどうしよう。考えに考えて、こう貰って、火玉が踊るほど吸って、返して。高尾は何を聞かれても何を問われてもただこう震えながら目も合わさずに、こう伏せ目がちにあいあい、あいあい、と答えている。この男に何を感じたのか。どう思ったのか。なんとその晩のうちに見事にもてなしてくれて、久蔵を一人前の男にしてくれて、さあ二人でもって、床を一緒にした。久蔵は寝られない。これはね、寝られるですよ? えぇ。女性にはお分かりになるか分かりませんが、男性は分かると思います。ここでね、思いが叶ったからってぐうぐうぐうぐう高いびきで寝られるような奴だったら三年も一人の女にね、会えるかどうかも分かんないのに惚れ続けるわけないんですから。じーっとして動いちゃいけないと思ってるし、憧れの高尾が横に寝てるし、寝息が聞こえてくるし。どうしていいか分からない。ただ身体堅くしてじーっとしているうちにだんだんだんだん身体は汗ばんでくる。願っていることはただ一つ。カラスよ鳴くな。世よ明けるな。世が明けなければカラスが鳴かなければ俺はもう一日高尾と一緒にいられるってんでじーっとしている。祈りも虚しく、一番鳥が鳴く二番鳥が鳴く世が白んでくる。すっと立ち上がった高尾がつーっと開けるってえとすーっといなくなっちゃったから、もうばちっ!
    久蔵:あああ・・・行っちゃった・・・
    しばらくすると、たとえ一晩でも契りを結んだからには亭主であり自分は女房。亭主に寝顔を見せいるのは夫人の恥というんで、高尾のほうは綺麗におめし変えをしまして、化粧を済ませて、またつっと入ってきた。入ってきたと思うけど、どうしていいか分かんないからまたじーっと寝ている。高尾は全てを見透かすかのように、こう、じーっと久蔵の顔を見ながら、微笑みながら煙草をじりじりじりじり吸ってる。見られてる自分も分かるけど、久蔵の方はおはようございますつっていいのか、はばかりに行きたいんですけどって言っていいのか。どうしていいか分からない。ただ身を固くしてじーっとしていると、高尾の方から
    高尾:主、御目覚めざんしょ? 一服吸いなんし
    といって出してくれた。うん、もう見栄も家来も気負いもないんでね、ばっといきなり起きると、どんな高血圧だってそんな寝起きはないと思うぐらいに飛び跳ねて、はいってんで吸って、返した。
    高尾:わちきのような者をお名指しで嬉しゅうござんす。主、邑楽(おうら)はいつざんすか?
    久蔵:・・・・・・あいあい
    高尾:そうではなくて、今度、いつきて来んなますか?
    久蔵:・・・・・・・・・・・・あい・・・三年経ったら・・・また来ます・・・
    高尾:三年? 長ごうざんしょ? もっとはよう来てくんなまし
    久蔵:三年経たなきゃ来られないわけが・・・あるんです・・・あの・・・金がないんです・・・
    高尾:ご冗談ばかり。主は、野田の醤油丼屋の若旦はん
    久蔵:すいません。嘘をつくつもりじゃなかったんです。勘弁して下さい。話・・・聞いて下さい・・・あっしは神田御玉ヶ池紺屋六べえの職人で、久蔵ってんです。
    高尾:わちきを騙したんざますか
    久蔵:いえ、そうじゃねえ。三年前に、三年前に花魁の姿一目見て、あっしは惚れました。なんとか一緒になりてえ、一目会いてえ、今考えちゃ笑っちゃいますけど、本気で考えてたんです。そしたら親方が馬鹿野郎。住む世界が違うんだって、及ばぬ鯉の滝登りなんだって、嘘つくような親方じゃありません。忘れろって言われて忘れようと思ったけど忘れられなかったんです・・・患っちゃいましてね・・・どうしていいか分からなくなってるところに親方がね、働きゃいいじゃねえかって銭貯めりゃ言葉悪いですけどね、売り物買い物上臈なんだって銭貯めりゃ必ず会えるんだって言われて・・・本当も嘘もねえんです。あんときはあの言葉に縋るより手がなかったから一所懸命働いた。あっしだって馬鹿じゃありませんからねえ・・・働いた、だんだん銭が貯まってくる。銭で会える人か会えねえ人か分かってきます。分かってますけどね、会えねえんだって決めちゃったらまた自分がどうにかなっちゃいそうで。人間ってえな欲の塊って本当ですね。だんだんだんだん金が貯まってきたんです。貯まったんです金が。貯まったら無理だと思ってたんだけど、金があるんだから会えるかもしれないと思って、また皆に迷惑かけて・・・この騒ぎでようやく・・・会えました。ありがとうございます。一所懸命働きます。二年できます。会ってくれませんか? 花魁さえだまってくれりゃ皆あっしのこと若旦那だと思ってる。二年で来るから会ってくれませんか? そうですか・・・答えちゃくれねえ。でもね、花魁、銭が貯まってまた来たって全盛の花魁だどこの大名の御妾さんになるかもしれねえ。どこの御名なの御親祖さんになるかもしれねえ。もし、金が貯まってきたときに花魁が見受けされてたらあっしはこれが最初で最後これっきり。頼みが一つだけあるんです。これなら聞いてもらえませんか。あの、この広い江戸の空で一所懸命生きてりゃ、いつかきっと花魁に会えるときが来ると思うんです。花魁は忘れてていいんです。あっしが飛んでいきます。そのときにあっしの顔を見て。木で鼻を括ったみたいにぷいっと横向いちまわねえで、久さん元気? ってそう言ってくれませんか? そう言って笑ってくれませんか? その一言で生きていきます。騙すつもりじゃなかったんです。騙さなきゃ会えなかった。勘弁して下さい。この通り。
    気だるそうな顔して煙管の吸い口額に当ててこう聞いてた高尾が聞き終わった途端にぷいと横向いた。ぽーんと煙管を放るとぽろっと一粒涙をこぼしてそいつの滴を切るってえと
    高尾:その御話は本当ざますか?
    久蔵:嘘じゃありません。俺は手え隠してたのも指先が藍色に染まってるのが分かるからお里が知れるから。口を聞かなかったのも
    高尾:分かりんした。わちき来年三月十五日年が明けたら、眉毛落として歯に鉄漿(かね)染めて、主の元に参りんすに、わちきのようなものでも主の女房はんにしてくんなますか?
    久蔵:・・・あいあい
    高尾:わちき主の女房になりたいんざます
    久蔵:そんなこと言うとこんな男だからまた本気になって
    高尾:主の正直に高尾は惚れんした。
    キッと横向くと後日の証拠にと刺していた簪をこう抜いてくれて手ぶんこから財布。中に三十両。なんと亭主の待遇でもって、久蔵を送り出した。久蔵なんだかわかんなくなっちまって。
    久蔵:トントントントン(ドアを叩く) だいぶだいぶまいりかえりあした トントントントン たらいぶあいりまいりあいりました トントントン たらいらいったらいったらいりらいりらった
    親方:相撲の巡業か? こんな早くに行司ってのは来るのかい? 開けろ開けろ。なに? 久蔵? おっ、久蔵! こっちこい!!
    久蔵:ただいま戻りました!
    親方:おうおうおう、振られたろ?
    久蔵:いえ、いい天気ですよ?
    親方:高尾に会えなかったろっつってんだ
    久蔵:ああ、会えた。親方会えました。ありがとうございました。会えました。高尾があっしに向かってにっこり微笑みかけてくれました。
    親方:知らねえんだお前。違うんだよあれはね、振袖新造とか留袖新造色々いるんだよ来るわけねえじゃねえか
    久蔵:来たよ来た。来ました。本当に来ました。嘘でねえ証拠があるもの。ほら、高尾からこれ貰ってきましたこれ!!
    親方:なに貰ってきたんだよ。なになに? 勘定書きか?
    久蔵:違う違う
    親方:何だこれ。へ? 高尾が頭に刺してた簪? うそ? 本当? なんだこの財布。え? おめえこれどうしたんだい。何だこれ!
    久蔵:何だか分からないけど、高尾があっしの顔をじっと見てね、ああこう言ってましたよ。えぇ、わちき来年三月十五日年が明けたらそのときのは眉毛落として歯に鉄漿(かね)染めて主の元に参りんすに、わちきのようなものでも女房はんにしてくんなますかとこういうざますよ親方。わちきはいったいどうしたらいいでありんしょう
    親方:なっ、まともな人間駄目にしちまっただろ? なっ、よせって。お前な、いいか? えっ? なんで花魁っていうか知ってるかお前、狐っつうのは人を尾で騙すんだよ。尾がなくても人を騙すから花魁っつうんだ。駄目だこんなもの触っちゃ駄目だ。俺が預かってらあ。
    久蔵:親方!
    親方:なんだい
    久蔵:大変だ!
    親方:なに
    久蔵:今気がついた!
    親方:なんだい
    久蔵:引き算すると儲かった?
    親方:ひっぱたくぞこの野郎。お前先生どうしたんだよ。
    久蔵:あっ、置いてきちゃった
    親方:馬鹿野郎お前、あの先生が恩人じゃねえか。いいや、あの先生帰ってくると人が死んじゃったりするからな。久蔵、会えたな。
    久蔵:はい!
    親方:夢が叶ったな!
    久蔵:はい!
    親方:働けっ!!
    久蔵:はいっ!!!
    さあ大変だ今度は来年三月十五日に高尾が来る。来年三月十五日に高尾が来る。来年三月十五日に高尾が来る。来年三月十五日に、もう誰も久蔵とも久こうとも
    親方:おい! 来年三月十五日! 早く飯食って寝ちゃえ!
    久蔵:では、来年三月十五日に!
    その年も暮れて、睦月如月弥生と過ぎて、真ん中の五日。うん、結構な黒塗りのよつでの籠が。ほい籠ほい籠ほい籠ってんでつーっと入ってくるってえと垂れ開けて出てきたのがなんと一番の丸髷でもって眉毛落として歯にかね染めて、すーっと立ったのが三浦屋の高尾。小僧に向かって
    高尾:でっちどん、御当家に久蔵はんと申すお方がおりんすに、わちきが来たと伝えてくんなまし
    小僧:親方ああああああぁぁ!! 親方あああぁぁぁ!!
    親方:もう辞めろよもう。うちが町内で評判なんだお前。小僧ぐらいしっかりしろよこんちくしょう。本当に。なんだよ。
    小僧:大変なものが来ました!
    親方:なに?
    小僧:え、えらいもんが!
    親方:ミサイルか? (or津波か?)
    小僧:ミサイルじゃねえですよ! あの、あの、来年三月十五日が来ました!
    親方:なに?
    小僧:三月十五日が来ました!
    親方:十四日の後は十五日! 十五日の後は十六日! 当たりめえじゃねえか! ああん? なにを? うるせえなどけ! よいしょ。久蔵! 久蔵! 高尾が来たぞおおお!!!
    二階に向かって叫んだら二階で久蔵がうわああああああ。なんだかわけのわかんない叫び声を上げるってえと梯子をだだだだだだーっ!と駆け下りてくるってえとそのまんまぴょーんぴょーんぴょーんっと親方の頭の上飛び
    親方:なにしやがんだちくしょう!
    土間に足が掛る、二足三足がくぞうっと腰が砕けたところに高尾の帯に手がかかって
    久蔵:花魁、待ってました
    高尾:三月十五日ざましょ?
    久蔵:はい。うぅうぅ、待ってたんです!
    高尾:久さん
    久蔵:はい!
    高尾:元気?
    うぅううぅううう、ぐすっ、いい話だなぁおっかあ!
    女将:おまえさんかよ! 久ちゃんだと思うだろ! あらまぁねえ、へっへっへっへっ、よかったねぇ。皆あたしのおかげ
    親方:お前何もしてねえ!! お前のおかげで壊れそうになったんだよ!
    そら、夫婦になるのに異論はありませんで親方が間に入ってめでたく。さぁこれから二人が暖簾を分けて貰って、染物屋。紺屋をやり始めた。大変な評判になって

    おう、元ちゃん!
    なんだい
    知ってるか、あのよう! 久蔵って
    知ってる
    紺屋抜き
    知ってるよ
    高尾を嫁にもらったってさぁ!
    驚いたね
    驚いたもなにもねえんだよ。たいしたもんだよ久蔵ってのは、ねえ! 三年貯めといてね、それを一晩でビシッといったつうんだよ。あれだな、俺たちゃちょびちょびいくだろ? 男勝負かけるときはやっぱり元手からビシッとそろえてよ、それでズターンといってな! そりゃ大事なとこだよ、うん。
    なに反省してんの? なにが言いてえんだ
    なにが言いてえつったらよ、なにが偉いつたって高尾が偉えったら
    そりゃそうだよな、三浦屋の高尾だよ。どこにだっていけるんだ。それがよりによって選んだのが紺屋の職人だってんだから。こら久蔵も偉いけど高尾も偉い
    そうだろ? そうだろ? 二人偉いだろ? 高尾がもう一つ偉いことがある。
    なにしてんの?
    なにしてんのってね、二人でもって店やって、高尾が指先藍色に染めて、えぇ? あれ一緒になって働いてるよ!
    へぇー、たいした、たいした了見だよ!
    行くだろ?そうするってえとね、また来てくんなまし。なーんっつうんだよ! えぇ? 三浦崩落っつうんだ! ただだよ! 見に行こうよ!
    よせよ。おめえ江戸っ子だろ? んなみっともねえ真似。ただで見るなんて江戸っ子の名折れ
    分かってる! そこに抜かりはねえんだよ! だからさ、俺は行く時はね必ず染物持ってってまた来てくんなましって言われてるんだよ。おかげでうちは真っ青。もう真っ青。ちかちかしちゃって。何にもねえんだ。仕方ねえからね今日はふんどし。
    汚ねえな!
    行くか?
    行こう!
    なんてんで門前位置を成したと申します。えーっ、この二人、沢山の子を儲け、ともしらがまで添い遂げたとこう申します。傾城に真なしとは他が言うた。真あるほど通いもせずに振られて帰る野暮なお客の憎手口。江戸の昔から伝わります紺屋高尾の一席でお時間でございます。
    スポンサーサイト



     こうも毎日のように立川談春の紺屋高尾を聞いていると、そのうち一字一句そのすべからく覚えてしまいそうだ。流行の歌を何度か聞いていると覚えてしまうあの感覚だ。しかし流行歌のように短いものではないので、何百何千と聞かなければ覚えられないだろう。
     覚えたところで誰に語るわけではない。私の下手な落語を聞かせるなら、談春師匠の落語を聞かせたほうが良かろう。そうは分かっていても、頭の中で盛り上がるシーンを暗唱してみると身体が疼いてしまう。私もやってみたいと思ってしまう。後悔すると分かっていてもその思いが沸々と湧いてきてしまう。

     こういった衝動は何もしないまま、もやもやとした気持ちのまま保持してしまうのがよいのだろう。
     恋煩いでも同じことで、一番楽しいのは恋を煩っている時分であって、華やかな未来を思い描き、想像を膨らませているときが実害もなく健全な状態だ。その恋が実ろうと実らまいと行動を起こしてしまってからではもう元に戻ることはない。現実と直視し、今まで思い描いてきたものが打ち砕かれ、そのようなものだと妥協をすることで精神を安定させていく。それが大人になることだと言う人がいるだろうが、それなら私はいつまでも大人になりたくない。

     

     と分けのわからないことばかり書いてきたが、どうも皆さんお久しぶり。
     そろそろ1ヶ月ほど放置してしまっていたエロゲ制作の方を進めて行こうと思う。
     いや、忙しかったの! 本当にゲームをしたり睡眠とったり読書をしたり落語を聞いたりでイソガシカッタ!! トテモイソガシカッタ!!

     最近モバマスをやり始めてみたけれど、楽しさが一向に分からない。
     体力を余らせてしまうのはなんとなくもったいないような気がするので、隙あらば携帯でポチポチしているのだが、私は一体いつになればこの苦行から解放されるのだろうか。
     これが楽しいと思えるときがいつか来るのだろうか・・・?
     いつか私も課金をする時がくるのだろうか・・・?

     といった具合で本日はここまで。
     ああ、早く寝なければ・・・。
     私の口癖でもある「今日も元気に死にたいな!」という言葉であるが、
     元気に死にたいというのはどういった状態なのであろうか。

     元気にという言葉があるのだから、「あー、ちょっくらリストカットしてくっかな!」といった具合に軽いノリで死ぬことが元気に死ぬことなのだろうか。いや、しかしこれはただ言動が軽いだけで元気に死ぬという表現には相応しくない。

     元気という言葉はモノの本によると、

     【元気】
     「一 ものごとをやろうとする気力。
      二[形動] 1.健康であるさま。
           2.気力にあふれ生き生きしたさま。
           3.相手の息災を祈る別れの言葉。」

     一に当て嵌めてこの言葉を使うとすると、
     今日も元気に死にたいな! というのは、死ぬ気力に満ち溢れているということになる。

     「断固として死ぬしかない。今すぐに。腹をこの場で掻っ切ってでも!!」というような状況下が元気に死にたいということなのだ。

     しかし、私にそれほどの元気があるだろうか。
     私は昔から受動的に生きてきた。流れる波には逆らわず、流れされるまま流されて、気がつけば大荒れの大海に流されていた。周りを見れば立派な船が荒波に負けじと浮かんでいるのに、私の船は草船である。いつ壊れても不思議ではない。というより、今まで壊れなかったのが不思議なほどだ。
     こんな船で一体どうしろと。今更嘆いたところで現状はどうやったって変わらないのだ。このまま壊れるまで浮かんでいる方が得策であろう。絶望的な状況下においても悠然と草船の上で寝そべっていたのだが、一向に草船は壊れてくれない。そろそろ壊れてもいいんだよと草船をつついてみても周りの船に負けじと荒波に浮かんでいる。しかし舵は利かないので流されるままに流され続けている。

     流れつく先にはさらなる絶望しか待ち受けていないと分かっていても、今にも壊れそうな草船を見て、もうすぐ壊れるから大丈夫と根拠のない安心感を得ている状態なのだ。

     一体、いつになったら壊れてくれるの?

     「今日も元気に死にたいな」
     これは私の願望を口に出した言葉なのだ。

     願望とは自らで叶えようと行動を起こさなければ叶うことはない。
     幾ら宝くじが当たって欲しいと願っても、宝くじを買わなければ当たるはずもない。

     だが、今の私にはその元気すらもないのだ……。

     ああ、今日も元気に死にたいな……。
     イッツアエイプリルフール!!
     というわけで、前回の言葉を忠実に守り、本日は気分転換がてらショートショートを書いていくことにする。

     監視社会を強化していけばどうなるだろうかと考えた。
     街中に監視カメラを設置した社会があったとする。

     しかし、監視カメラを至るところに設置したところで誰がそれを見るのか。
     事故が起こった後に犯人の特定を容易にすることは可能であるが、事故を防ぐことはできない。
     暇人のための道具や悪用されるのが関の山だろう。

     そこで私が考えたのは、大衆により監視カメラを監視してもらえばいいのではないだろうかということだ。
     監視カメラに映った犯罪行為を通報することにより、その犯罪に応じた懸賞金が貰えるという制度を作り上げ、
     軽度の犯罪行為であろうとも、監視カメラの映るところで行えばすぐさま通報され罰金となる。
     その罰金は懸賞金や維持費に変わり、循環が可能となる。
     次第に維持費を保つために軽度の犯罪であろうとも罰金が鰻登りになっていくことは間違いない。
     ゴミのポイ捨てであろうと何万という罰金が取られるようになるだろう。
     犯罪をなくすため、社会を成り立たせるためには仕方のない犠牲である。犯罪をしなければ問題ないのだ。善良だと自負している市民の声は強い。

     上記のような監視社会が高まれば、このようなことが起きるのではないだろうか。
     専業主婦は夫が仕事に出かけた後に暇な時間で出来る。
     その暇な時間に監視カメラを眺めることにより、小金稼ぎが可能となる。
     誰かが不法投棄するところや万引きするところ、コンビニやスーパー、道路に至るまでありとあらゆる場所が家の中で一望することができる。
     全国をどこでも眺めることができるといっても普通の人であれば自分の住んでいる街を監視するだろう。
     街の自治をしていることで自尊心を高めることができ、この街では直ぐに通報されることが知られれば防犯にも役立つ。

     通報の際にもルールを設けなければならない。
     通報した人全員が同等の金額を貰えるのであれば、グループによる懸賞金目当ての通報が相次ぐ。
     これを解決させるために、通報があった人数によって懸賞金が分けられるようにするのだ。
     勿論、一番最初に通報した者には特別のボーナスをつけることによって、グループ形成を防ぐ。

     そういった具合に監視社会を形成した上で、どのような問題が起きて行くのかを考え、物語にしなければならない。
     夫が外出した後に妻はこの監視社会を説明しつつ、監視カメラを覗く。
     

     (適当に更新中です。また後ほど見に来てください)
     嘘をついてもまかり通る日があるのならば、嘘をついてはいけない日も設けるべきではないだろうか。
     正直者は馬鹿を見るというが、一日ぐらいは救われる日があってもよかろう。

     勿論、こんな日を設けたところで日ごろから嘘をついている者たちが嘘をつかなくなるなんてことはない。
     浮気をしている女性に「浮気しているのか?」と聞いたところで正直に答えるわけがない。
     しかし、正直に生きている人たちにとっては、この日だけは自分に誇りを持つことができるだろう。

     嘘をついてはいけない日の効果はさらにある。
     女「ねえ、私、あんたのことずっと好きだったの」
     男「おいおい冗談言うなよ」
     女「冗談じゃないよ! それに……今日は何の日か知ってるでしょ?」
     男「今日は……嘘とついちゃいけない日……じゃあ、本当なのか……?」
     女「うん///」

     なんていう風に告白をする日に最適なのでs……うがああああああああああああぁぁぁぁ!!
     いらねえええええええこんな日いらねえええええええええええぇぇ!! 
     ただでさえクリスマスやらバレンタインデーやら男女の仲を取り持つふざけた風習があるのにこれ以上増やして我々のような存在を蔑にしていいのか!! いや、いいわけないだろ!!
     何が嘘をついてはいけない日だ! 正直者など淘汰されて豚の肥やしにでもなっていればいいのだ!!



     少し取り乱してしまった。
     次回よりそろそろ真面目にエロゲ制作に取り組む。

     今日がエイプリルフールであることを考慮すると、この発言は……