FC2ブログ
    とりあえず紺屋高尾を改変したものを完成させた。
    どこをどう改変したのかを簡単に説明すると、

    立川談志の紺屋高尾には感動が足りない。立川談春の紺屋高尾には笑いが足りない。
    じゃあ、二つを組み合わせればいいじゃねえかと、そんな安易な考えで作った。

    談志には感動が足りないとはどういうことか。
    それは久蔵に毒を吐かせすぎてしまっていて、どうにも言葉に重みが無くなってしまっている。なので、久蔵の毒を抜き、毒を吐くのは久蔵以外の親方や女将としている。

    談春の笑いが足りないとはどういうことか。
    久蔵を純粋な男にするあまりに、頭の方もあまりにも抜けすぎており、笑いの方向性が与太郎だとかそういった系の笑いとなってしまっている。あくまで久蔵は真面目な男であり、世間知らずというわけではないと私は思っているので、そこら辺を改変した。

    そして御二方の紺屋高尾の良い点を抜き出して、談春をベースに大幅に改変した。
    最初の下りはほぼ談志。女将が出てくる辺りからは談春で、そこからは談志の笑いを取り入れつつ、談春のベースを崩さずにそのままでやっている。
    また、久蔵が高尾に全てを告白するシーンの下りは談春よりも談志の方が良いので、そこら変も置き換えている。
    頭の中でここはこうした方がいい。ここは変えた方がいいというようなことをやっているので、実際に喋ってみるとなるとまた色々と改変するべき点が出てくるだろう。
    時間があるときにでも実際に声に出して喋ってみることにする。


    親方:辰
    辰:へい
    親方:久蔵どうしたい
    辰:寝てます
    親方:なに? 寝てる?
    辰:患ってます
    親方:患ってる? ふーん、なんでい、えっ? 風邪か?
    辰:何だか知りませんけどね、今日で仕事三日降りきませんしね、飯も食いませんよ
    親方:飯食わねえ? おぉ? よーし分かった、行ってくるよ。よいしょ。 トントントントン(ドアを叩く)開けるよ。おう、どうしたい。えっ? 具合悪いって風邪か? 大丈夫か?
    久蔵:あぁあ・・・はい・・・あぁぁ・・・はぃ・・・
    親方:なにをこんちくしょう。病人らしい声出して同情引こうたってそうはいかないよったく。えぇ? 風邪ぐれえで休んじゃ駄目だよ。うん、やめえは気からってな。元気出せよ。
    久蔵:ありがとうございますが、私はもう今度という今度はもう助からねえ。さらばでござんす。
    親方:なーにがさらばでござんす何処で覚えてきやがった言葉を。えぇ? 死ぬわけねえだろ人間だったらやめえで死なねえ寿命で死ぬもんだってとてもおめえ寿命来てるとは思えねえわな、んん? 悪いとこあったらそう言ってろ。えぇ? 俺に言たっていいカカアに言ったっていい。誰に言ったていい薬買ってくらあ。先生呼んできてやろうか? えぇ? 何処が悪いんだよ。
    久蔵:医者だとかそういう薬じゃ治らねえんです・・・
    親方:治らねえって? んじゃ、なんなんだい。
    久蔵:ですから、いいんです・・・
    親方:よかねえよ。心配だから。おい、心配させんなよ。言ってくれよ。
    久蔵:言って・・・言っても駄目ですけど・・・お医者様でも草津の湯でも・・・
    親方:なんだよ、どっかで聞いたような文句だな。知ってるよ。お医者様でも草津の湯でもーどっこいしょってんだろ。惚れた・・・えっ、ちょっと待ってくれ。そこに繋がるのか?
    久蔵:ああ・・・はい・・・
    親方:余計だってこんちくしょう。この野郎。ああ、そうか。へぇー、驚いたね。昔から鯉の撹乱鯰の脚気、恋の病で恋煩いってなことを言うがな、うん。そうかそうか、ふーん、いいよ。なあ、お前なんぞどっちかっつうと変にかてえ女ってのを知らねえのか綺麗なのかって心配(しんぺえ)したこともあるが好きになるってのは当たりめえだ結構じゃねえか。だけどおめえ片思いってのはどうにも気に入らねえよ。うん、片思いってのはうん、よくは知らねえけども御屋敷の中にいる奥の方にいるお嬢様ってのが惚れた男が出てくる。それを会いてえたって口にもだせねえ。これが恋煩いってんだな。職人が患うような病気じゃねえよそんなものはな。あぁ? 好きな女がいるんなら行って、連れてきてやっちゃえ。うん、なんなら俺が手伝ってやったっていいよお前。後で俺が、いやそりゃ嘘だけども。何処の誰だい?
    久蔵:それは勘弁してください・・・
    親方:そんなこと言うなよ。勘弁できるだけ言ってくれよ。
    久蔵:もう・・・聞かれると・・・面目なくて・・・親方になんて言っていいか・・・もう身の程知らず・・・
    親方:おぅ? 身の程知らず? 面目ねえ? えーっと待てよ。おう、言わなくていい。だいたい分からぁな。面目なくて身の程知らず。分かった。おい! ちょっとお滝あがってこいこっちへ! いいからあがってこい! いいから! あがってこいあがってこいあがってこい、うん。そこに座んな。おめえな、若い者の面倒見るのありがてえ。結構だけども、度が過ぎると向こうが変な気起こすから気をつけろってこう言ってんだ。え? おめえに惚れちまった。片思い。俺に面目ねえって患いついちった。そうかよおい、しょうがねえなあ! うーん、正直なところおめえにやっちまっても構わねえようなもんだけどな。そうもいかねえな。じゃあ、どうしよう。半分ずついくか、なっ。おめえが昼間いくと、俺が夜いくとかな。おーう、一日置きにい
    久蔵:女将さんなんかに惚れるわけないじゃないですか
    親方:下に行ってろ。誰が上がってこいつったこの野郎! うん、じゃあ誰だい。言えよ。言えよ。助けてくれよ。俺おめえ好きなんだ。おめえに患われってると俺が参っちまうよ。なっ、頭下げてもなんでもするから一つ言ってくれ。
    久蔵:すいません。そんなつもりじゃねえんです・・・話はしますから聞くだけで流して下さいよ。
    親方:おう、まあいいよ。
    久蔵:ええ、お願いします。実はあっしは五日ばかり前に兄弟子に連れられて初めて吉原の大門ってのをくぐったんです。
    親方:うん、うん、うんうん。年は幾つだい。25だろおめえは。えぇ? 遅せえはな。それがどうしたい。
    久蔵:うぅ・・・入ったところがあの、中野町ってんで
    親方:知ってるよんな改めて言われなくたって。うん、
    久蔵:それで人がごろごろごろごろかけてくるんです。なんだなんだと行ったら花魁の道中ってのを初めて見ました。えぇ、その花魁道中の綺麗というかこの世にこんなものがあるかという、えぇ、その明るい
    親方:明るいわなおめえ
    久蔵:夜です
    親方:分かってるよ。不夜城ってんだからな。うん、昼間ばっかりってなところだよ
    久蔵:それで出てくるのが何屋の何某とかどこそこの誰
    親方:うん、皆そら売れっ子が出るんだ
    久蔵:で、天人が天下ったような、綺麗な人が次から次へ。これが人間かと思うような綺麗な女の人が出てくる。綺麗綺麗の中にひ、一際目立つ良い女! あっしがじーっと見ていたら、そしたら目がパッと合ったんです。合ったらあっしに向かってニコッと微笑みかけてくれたんです・・・
    親方:いいじゃねえか、病治っただろ
    久蔵:聞いたら三浦屋の高尾だってことを聞きまして。どんなもんだ売りもんだ。ああ、あれが売り物買い物ならなに一日と言わなくてもいい。一時でも半時でも小半時でも共に過ごしてえと言ったら兄弟子に笑われた。てめえ職人のそんなもの相手にできるものじゃない。大名堂無といって松の位の他夕食とかその大名だって頭(かぶり)横に振ったら相手にできないという位の高い者。職人なぞ及ばぬ鯉の滝登り。家に帰ってしょんべんして寝ちゃえって言われて、親方、家に帰ってしょんべんして寝たんです。ええ、とてもとても。しょんべんは出たけど寝られるものじゃねえんですよ。目え瞑ると高尾がこう浮かんでくる。うん、こう相手も暗い所に高尾が浮いてくるんです。えぇ、飯を食おうかなと思うと高尾と思うと喉に通んなくなった。なに見ても、もう高尾しか思えねえんですよ・・・こう親方の顔見てるとだんだん親方の顔が高尾に・・・高尾おぉぉぉ!!
    親方:近づいて来るんじゃねえよこの野郎! ちくしょうめ、ええ? 馬鹿なことすんない。
    久蔵:まあ、そういう・・・そういうわけで・・・えぇ、会おうたって会えねえ。もうしょうがねえ。あっしは面影抱いて死んじゃおう・・・いや、死ぬつもりはねえが、こうなりゃもう死ぬよりしょうがねえ。どうしようもなくなって・・・
    親方:たぁー! ようし分かった。良く言ってくれた。うん、だけどおめえよ。うーん、その通りだよ。なっ、兄弟子の言う通り、なっ。及ばねえんだから。身分が違う。及ばぬ鯉の、なっ。向こうは入り山形に二つ星松の位の他夕食。えぇ? こっちは紺屋の職人風情だ。その通りだと思うよ。なっ、んなくだらねえこと言ってんじゃねえ。夢みてぇなこと考えてねえでさっさと飯食って働け! 分かったな?
    久蔵:あぁ・・・はい・・・
    女将:話は聞かせてもらったよ
    親方:おめえ下に行ってろつったろ! 盗み聞きしやがってこの野郎!
    女将:ったくだからお前さんは馬鹿なんだよ。そんなもの売り物に買いもの、売るって言ってるんだから買えばいいじゃないの。
    久蔵:買えるんすか・・・?
    親方:お滝、ちょっとこっちこい。(小声)お前なぁ! お前よくそういうこと言うね。そんなこと言ったらあんな奴だから本気にしてあてにしてあとでとんでもないことに
    女将:(小声)だから子供なんだよお前さんは嫌になっちゃうねえ。
    親方:(小声)何が嫌になっちゃうんだよ
    女将:(小声)はしかみたいなもんなんだよ。高尾だよ相手は。ええ? 会うには大変なお金がいるって言えばいいの。ねっ、一所懸命働けって、大変なお金を言やいいんだよ。一所懸命働いているうちにあの子はね、元気な男なんだよ? そんな会えるか会えないか分かんないような女にね生涯惚れられてるわけないじゃないか。えぇ? そうだろ? 脇を見てごらんよ。そこら辺にいいのがいるんだねぇ。伸ばせば手の届く華が。なぁー、そうなったらあたしの出番だね。あっはっはっ、誰がいいかね、久ちゃんはね。腕も立つしまじめだしね。えーっ、どこの子に町内の子だったらあの、糸屋
    親方:(小声)お前やり手ばばあかお前。じゃあ、俺言ってくるよ。いいのか本当に。大丈夫か。お前が言ったんだからな。
    女将:(小声)大丈夫だよ
    親方:久蔵、おめえ会いてえのかい?
    久蔵:はい、会いたいです
    親方:お前会いてえんだったら売り物買い物上臈じゃねえかいくら銭かかるか分かんねえけども銭持ってきゃ会えるよ会やいいじゃねえか。
    久蔵:会えるんすか?
    親方:お、おう・・・会えるよ?
    久蔵:会います
    親方:会いますっつうけど、お前ちょうだいなつって持ってって買えるようなそういうような銭じゃねえんだぞ? 大変な銭だぞ?
    久蔵:幾らかかるんすか?
    親方:そうだなあ、一晩渡すんでどう安くみつくろたって十五両。
    久蔵:えぇ? 十五両? いっぺんに払うんですか?
    親方:あたりめえだ馬鹿野郎。女を月賦で買うやつがいるもんか。十五両な、諦めるか?
    久蔵:諦めやしませんけど、そんなお宝見たことありませんから、あっしにそんな金貯められますか?
    親方:貯められるよ。おめえ一人前以上の腕してるじゃねえか。無駄もしねえ酒も飲まねえ。なっ、うん。必ず貯められる。貯められるけど、無駄もしねえ腕もいいお前がな、三年。三年。いいか、夜も寝ないでってそれぐらいの了見でもって働きゃ三年ありゃ十五両貯めさせてやるよ。なぁ? どうするよ。三年働いて十五両だぞお前、えぇ? 諦めたほうがいいじゃねえか?
    久蔵:三年働いて十五両貯まったら高尾に会えるんですね?
    親方:へ?
    久蔵:三年働いて十五両貯まったら高尾に会えるんですね。
    親方:お、おう
    久蔵:寝てる場合じゃありません
    立ちあがってぺっぺっぺっぺぺぺーと台所飛び込んで鮭の茶漬けを十三杯食って、よーし働くぞーってんでこれから働きました。三年働いて十五両貯まったら高尾に会える。三年働いて十五両貯まったら高尾に会える。三年が十五両。十五両が三年。高尾が十五両。三年が十五両ってうるせえのなんのってね、三日ばかり経ったらぴたっと何も言わなくなっちゃって、静かになっちゃって
    小僧:親方ー!
    親方:おう
    小僧:久蔵が変ですよ
    親方:またかおい。何だい。
    小僧:なんか三年とか十五両とか高尾とかね、何にも言わなくなっちゃいましてね。
    親方:言わなくなるのがあたりめえなんだよ。いきなり静かになんのも気になるわなぁ。お滝よお、静かになっちゃったよ、どうしたの?
    かみさん:だから言ってるじゃないか、頭のいい子なんだよ。このまま一所懸命働いたからってね、高尾に会えるってね、そんな証何にもないんだよ? ねっ、もうちょっと待ってるとね、そろそろ脇の女の子に目が移る頃だよ。ふっふっふっふっ、誰にしようかねぇ。
    親方:やめろその目。ほっぽいといていいのか? ああ、そう、分かった。おう、うちのおかあほっぽいといていいって言ってっからそっとしとけ。
    小僧:へい分かりました。
    あっという間に時は流れまして三年経ちましてな
    久蔵:おはようございます!
    親方:あい、誰だい? おう久蔵じゃねえか、おう。
    久蔵:おはようございます。
    親方:はええな。
    久蔵:あの、今日一日休みを貰い
    親方:ああ、聞いてるよ。お前一所懸命働いてもらってな、俺がぐずぐず言ってるようじゃしょうがねえよ。おめえみてえに根詰めて働かれるとかえって俺は気になるよ。身体壊しゃしねえかと思って。えぇ? 聞いたら三年ぶりの休みだって? まぁ、よく働いてくれてありがてえわな。うん。まあ、いいけどよ。でー、あの、小遣けえ貰うんだったらな、一分でも二分でもおばさんに言ってもらってきな。いいよいいよ、ゆっくり骨休みしてこい。
    久蔵:ありがとうございます。じゃ、親方に伺いてえんですけど
    親方:おう、なんだい?
    久蔵:ずっとお給金貯めて預けてあると思うんです
    親方:おうおうおう
    久蔵:幾らぐらいになりましたかね
    親方:それだ(手を叩いて) 人間て妙なもんだな。えっ? なんかなー、そんな気がしたのかな。ゆんべかかあと二人で寝つからねえんだよ。あぁ、それから勘定してみたらね、驚いたねおい。幾らあると思う? 十八両と二分だよ。塵も積もれば山って、おめえの給金塵つっちゃ悪いけどな、十八両と二分だ。いやいやいや、喜ばねえで、こっから俺話があるんだいいか聞け。なっ、おまえ三年で十八両と二分貯めたんだ。あと1両二分貯めろ。そうすると二十両って金が纏まるだろ? そうするとな、おめえが二十両貯めると俺が嬉しさの着物をお前にこしらえてやる。それ着てな、二十両持って国に帰れ。かずさ港だつってたな、おとっつあん早くに亡くしておっかさんが一人で暮らして兄貴が面倒みてるつってた。そのな、おっかさんの前にな、二十両前に出してやるんだ。ねっ、小遣い渡してやれ。赤の他人に貰う千両万両より実の倅に貰う二十両。親はどんだけ嬉しいか分んねえ。なっ、きっと涙流して喜んでくれるよ。でっ、お前はそのまんまかずさ港、故郷でな、ずーっと暮らしていくってそれもいいよ。それもいいけど、おめえだって長い間枝の風に吹かれてんだ。えぇ? どうも田舎は退屈だなっと思ったら、どこにも行かないで一本槍でもって家に戻ってこい。そうすってえとな、生意気なこと言うようだけどな、おめえに嫁貰ってな、俺たち夫婦、楽隠居って隠居させてもらって、夫婦養子ってことにしてな、うん。俺はおめえのこと好きだ。腕もいいしな、親切だし嘘つかねえし真面目だし。他の者には他のものでまたちゃんとそれだけのことはする。ぐずぐず言わせやしねえ。分かったな、なっ。あと一両二分だ。二十両貯めて、すべての話はそっからだから。いいな! あと一両二分。三年で十八両と二分貯めたんじゃねえか。この野郎。一両二分ぐらいわけねえや、なっ! しっかり貯めろ、分かったな!
    久蔵:ありがとうございます!
    親方:よしっ!
    久蔵:親方、そのうち十五両使いたいんです。
    親方:今いい話したろ? おめえ何聞いてたんだよ。なんだお前、十八両と二分のうち十五両使っちゃうの。何すんの。
    久蔵:買うんです。
    親方:えっ?
    久蔵:買うんです。
    親方:そりゃそうだろうよ。買うんだろうよ。売るわきゃねえじゃねえか。何買うんだい。
    久蔵:へっへっへっ
    親方:いや、へへへへじゃくて、何買うのか言ってみろっつてんだ。
    久蔵:あっしの稼いだ銭をあっしが使うんですから、ぐずぐず言わないで渡して下さい。
    親方:この野郎! 生意気なこと言いやがってこん畜生! えぇ? やだやらねえよ。
    久蔵:なんでですか!
    親方:なんで親方って言うか考えてみろ。いいか? おめえの親代わりなんだよ俺は。だから親方ってこう言うんだよ。何買ったっていいよ? 何買ったっていいけど、あとでわけえ内ってのはくだらねえものに目が移るんだ、なぁ? くだらねえことで銭使っちまって、あんなことしなきゃよかったなってときにもう手遅れだからちゃんと俺にだけは話をしろってんだ。俺に話のできねえような金の使い方なら十五両どころじゃねえや。ただの一文だっててめえにはやらねえや。
    久蔵:あっしが稼いだ銭をあっしが使えねえんですか!
    親方:使えねえんだ。持ってんのは俺なんだからな。
    久蔵:要らねえや! 使えねえんだったら要らねえ!!
    親方:おう、お滝よ、銭入った。大金だ。十八両と二分だ。二人で草津の湯治場でもって
    久蔵:誰がやるっつったい!
    親方:じれてんじゃねえよこんちきしょう。おめえの銭をねこばばするわけねえじゃねえか。言ってみろよ。言ってみろ。
    久蔵:高尾買うんですよ
    親方:え? たかを買う? 鷹? あれ危ねえんだ爪の先がこんなになって。光るものに行くんだ。目の玉までピューっと行くんだ。それならもっとかわいいのにしろ。目白とか十姉妹(じゅうしまつ)とかあんだろ。
    久蔵:あっしが三年の間寝ないで働いたのは三浦屋の高尾に会いてえ一心で高尾
    親方:あっ、高尾。三浦屋の。忘れてねえのかい。よし、分かった! (横を向いて)どうすんだよ。どうすんだよ。
    女将:あたしゃ知らないよ
    親方:ふざけんなこんちくしょう! 何が知らねんだい!
    女将:何が知らないって知らないよあたしは。ねえ、おまえさんが会わせてやるっつたんだからさ、ね。男なんだから会わせてあげれば
    親方:ふざけんなこの野郎! おいおいおい、久蔵久蔵久蔵、おい。お前何、三年。俺が一番よく知ってら。店の者も皆知ってるけど、寝ないで働いて貯めた十八両のうち十五両、高尾に一晩で使っちまっていいのか?
    久蔵:駄目ですか?
    親方:大好きだよそういうの。いや、俺は好きだよ? お前はいいのかつってんだよ。いいの? ああ、そう。いいけど、銭はあるけどな、銭はあるけどな、紺屋の職人じゃ駄目なんだよ。な、高尾に会うとなったらな、きちんとな色んなとこ格式ってんだけどな、通して通して通して、初めて会うんだ。これが俺が疎いんだ。弱っちゃったな。誰かいねえかな。おい、誰かいねえかな。この辺で吉原に詳しいっての。いねえか? え? ああ、あの裏にいる? やぶいちくわん? あれやぶだつってたぞ。え? やぶな分だけ? あ、お太鼓医者なのか。客のお供でもって? ああ、吉原よく行ってるもんで? 詳しい。それいいね、それ。呼んで来い。え? 表通る? あっ、先生!! 先生、先生、先生!! すいません!! ちょいと大至急!! こちらへ!! 急患急患!! 先生、急患!!
    医者:はいはいはいはいはいあーっさあさあさああーっ、もうご安心なさいあたしが来たら大丈夫。さっ、えぇ、じゃあ脈を拝見しましょう
    親方:いや、脈を拝見なんてそんな人殺しの真似ごとみたいなことしてもらっちゃ困る
    医者:なんですか?
    親方:なんですかじゃねえんですよ先生、えぇ、久蔵ってんですけどご存知ですか? そうですか。うちの職人なんですけどね、この野郎がね、恥ずかしい話なんですけどね、こともあろうにね三浦屋の高尾に思いかけましてね、でもって執念みてえに貯めた金がね十八両と二分。ちょいと二十両欠けるんですけどあるんです。どうしても会いてえってそう言ってるんですよ。えぇ、そんなの無理だってあっしは言ったんですよ。言ったらね、寝込んじまって、患いついちゃったんです。当人金貯めて今日やっと会えると思ってるんですよ。ここで会えねえっつうとね、またこいつ患いつくどころじゃねえんです。命にかかわるですよ。薬で病人治すのはいくらでも医者でいますけどね、如雨露界で病人治せるの先生だけなんですよ。先生は名医だって評判がいいんだ! お願いします。
    医者:妙な話ですな。久さん、お前さんなんだい。高尾太夫に会いたいの?
    久蔵:はい、先生! 会いたいです!
    医者:ああ、そう。で、親方これいつ行くんですか?
    親方:野郎今晩行きてえってはりきってんですけどね
    医者:ああ、そうですか。分かりました。今晩、あい畏まりました。あい、一緒に行きましょう。請け合います。
    親方:請け合いますって先生、お医者様ってのは病看見舞いとかあんじゃねえですか? 先生が待ってる病人
    医者:えぇ、ほおっておきなさいよそんなものは。関わりあっちゃいかんです。医者が病人に。ここだけの話ですがね、病人というものはね、寿命で死んだり寿命で生きたりするんです。それを変に薬なぞ盛ってね、寿命をこう伸ばしたり縮めたり、これはね、神をも恐れぬ冒涜。
    親方:へぇ、そんなもんなんですね! (横を向いて)患ったらこの医者辞めろよ。 (前を向いて)どうしましょう
    医者:どうしましょうって言いますがな、親方は分かると思いますがな、どれだけお金があっても、久さん、紺屋の職人じゃ会わせちゃくれない。でね、えぇ、そうですね。こうしましょう、お前さんね、野田の醤油丼屋の若旦那ってことにするから、いいかい、でーその、親方の物は良い着物でしょうが、ちょいと地味目なんでね、若旦那に合うというそういう着物、髷の形も拵えて、えぇ、それで、夕方迎えに来ますんで、はい。形だけなりだけ拵えといてください。
    親方:へい、分かりました! 一つよろしくお願いします! おう、久蔵、こっちこい、えぇ? 俺が髷拵えてやるよ。
    女将:久ちゃん、こっちおいで。こんな着物はどうだろう
    ってんで普段が親切な人ですから、皆が寄ってたかって拵えてくれて、これは馬子にも衣装神形ってんで、ものの見事に若旦那風なのが一人できまして
    医者:えー・・・今晩は・・・
    親方:あっ、先生、お待ちしておりました。どうぞどうぞ。
    医者:はいはい、じゃあちょと失礼をいたしますよ。おお、久さん。こら見事なもんだな。立派な若旦那だ。あぁ。立派な若旦那はいいんだけどね、久さん、そこまで作ってくれたんならこっから力が入るよ。いいかい? 久さん、お前さんはね、その指を出しちゃ駄目だよ。藍色に染まった指先を見りゃね、ああいう里、廓、ねえ、ええ。こう勘の働く人が多いからお前さんのお里が知れてしまうから何があっても手はこう隠しておくんだよ。分かったね? いいね? 分かったね?
    久蔵:はい、先生の言われた通りにします!
    医者:それがいけなんだ。なんか喋っちゃいけないの。いいかい? お前さんね、あたしのことを先生なんて言っちゃいけないんだ。お前さんは主人であたしは家来なんだから。だからあたしのことはやぶい、ちくわんと呼び捨てにするんだ。分かったね? でね、あと、何か言っても駄目だから。向こうに何か言われたら、このまんまの形でもってあいあい、あいあいとこう言いなさい。重ね言葉といって大変に品良く聞こえるから。分かったね、いいね? 大丈夫だね?
    親方:大丈夫だな、久蔵、この野郎! しっかりしろよ!
    久蔵:大丈夫です
    医者:若旦那
    久蔵:は、はい、先生!
    医者:やぶい、ちくわんと呼ぶ捨てにしなさい。いいかい? 久さん、緊張してるのは分かるけど、お前さんの思いはお前さんの一言で駄目になっちまうんだよ? ちゃんと言わなきゃ駄目だよ?
    久蔵:ああ、分かりました。
    医者:若旦那
    久蔵:やぶやぶやぶ・・・
    医者:何?
    久蔵:やぶ医者
    医者:わざとだろ。 じゃあ親方行ってきます。
    親方:よろしくお願いします。おい、久蔵、おめえな、しっかりしろよ本当に! 振られんな!
    久蔵:いい天気ですよ?
    親方:先生、これですから。やんなっちゃうでしょ。一つよろしくお願いします。
    医者:あい分かった。じゃあ、久さん行こうか。
    久蔵:やぶい!
    医者:まだ早いよ
    神田御玉ヶ池紺屋六べえの家を出まして、そのまんま吉原へってんでお茶へ通されまして、で、もう先生の顔でございますから、さて先生、本日のお名指しはっとわっと騒いでいるところに女将がやってきて、女将、無理でもあろうが三浦屋の高尾太夫をと言われて、これは女将だってぷっと吹き出したくなるようなこれは馬鹿げたお願いです。吉原で全盛だっつってんですから、その日に行って会えるわけがない。ところが茶屋ですから、先生ほどのご通過様がご冗談ばかりと言ったんじゃ暖簾に傷がつくというんで、畏まりました。高尾太夫でござまいますね。ご無理でもございましょうがって一言が合って、そのままつーっと聞きに言ったら、なんと空いている。会うと。上々の趣味。
    高尾:いつもお堅いお客はんばかりで気が気が詰まりんす。たまにはそのような若旦那はんの相手がしとうござんす。
    と言うんで、白提灯に送られて、そのまんま連れていかれて、さあ、三浦屋へー。もう先生どっかいなくなっちゃって、高尾の座敷に久蔵が一人でもってとんと座らされて、あら、こんな厚い座布団何枚か重ねて、その上に座ったようなもんの、その頃の粋と勢と美と全部集めた、この吉原で全盛と言われた花魁の座敷の中へぽーんっと座らされてただ一人で待ってる。これほど不安なことはありません。うん、がたがたがたがた震えている。心のどこかで久蔵は高尾に会えるんだってのも余計身体の震えを強くする、そのうちに結構な香の匂いが立ち込めてくる。かものに敷かれた高尾が衣擦れの音と共につっと開けて入ってくると、これが礼儀の横っ座り。高尾は何を聞かれても何を問われてもただこう震えながら目も合わさずに、こう伏せ目がちにあいあい、あいあい、と答えている。この男に何を感じたのか。どう思ったのか。なんとその晩のうちに見事にもてなしてくれて、久蔵を一人前の男にしてくれて、さあ二人でもって、床を一緒にした。久蔵は寝られない。これはね、寝られるですよ? えぇ。女性にはお分かりになるか分かりませんが、男性は分かると思います。ここでね、思いが叶ったからってぐうぐうぐうぐう高いびきで寝られるような奴だったら三年も一人の女にね、会えるかどうかも分かんないのに惚れ続けるわけないんですから。じーっとして動いちゃいけないと思ってるし、憧れの高尾が横に寝てるし、寝息が聞こえてくるし。どうしていいか分からない。ただ身体堅くしてじーっとしているうちにだんだんだんだん身体は汗ばんでくる。願っていることはただ一つ。カラスよ鳴くな。世よ明けるな。世が明けなければカラスが鳴かなければ俺はもう一日高尾と一緒にいられるってんでじーっとしている。祈りも虚しく、一番鳥が鳴く二番鳥が鳴く世が白んでくる。すっと立ち上がった高尾がつーっと開けるってえとすーっといなくなっちゃったから、もうばちっ!
    久蔵:あああ・・・行っちゃった・・・
    しばらくすると、たとえ一晩でも契りを結んだからには亭主であり自分は女房。亭主に寝顔を見せいるのは夫人の恥というんで、高尾のほうは綺麗におめし変えをしまして、化粧を済ませて、またつっと入ってきた。入ってきたと思うけど、どうしていいか分かんないからまたじーっと寝ている。高尾は全てを見透かすかのように、こう、じーっと久蔵の顔を見ながら、微笑みながら煙草をじりじりじりじり吸ってる。見られてる自分も分かるけど、久蔵の方はおはようございますつっていいのか、はばかりに行きたいんですけどって言っていいのか。どうしていいか分からない。ただ身を固くしてじーっとしていると、高尾の方から
    高尾:主、御目覚めざんしょ? 一服吸いなんし
    といって出してくれた。うん、もう見栄も家来も気負いもないんでね、ばっといきなり起きると、どんな高血圧だってそんな寝起きはないと思うぐらいに飛び跳ねて、はいってんで吸って、返した。
    高尾:わちきのような者をお名指しで嬉しゅうござんす。主、邑楽(おうら)はいつざんすか?
    久蔵:・・・・・・あいあい
    高尾:そうではなくて、今度、いつ来てくんなますか?
    久蔵:・・・・・・・・・・・・あい・・・三年経ったら・・・また来ます・・・
    高尾:三年? 長ごうざんしょ? もっとはよう来てくんなまし
    久蔵:三年経たなきゃ来られないわけが・・・あるんです・・・あの・・・金がないんです・・・
    高尾:ご冗談ばかり。主は、野田の醤油丼屋の若旦はん
    久蔵:あっしは・・・若旦那でも流山でも・・・紺屋の職人なんでございます・・・
    高尾:わちきを騙したんざますか
    久蔵:嘘をついてすいません。勘弁して下さい。話聞いてください・・・三年前に、三年前に花魁の姿一目見て、あっしは惚れました。なんとか一緒になりてえ、一目会いてえ、今考えちゃ笑っちゃいますけど、本気で考えてたんです。そしたら親方が馬鹿野郎。住む世界が違うんだって、及ばぬ鯉の滝登りなんだって、嘘つくような親方じゃありません。忘れろって言われて忘れようと思ったけど忘れられなかったんです・・・患っちゃいましてね・・・どうしていいか分からなくなってるところに親方がね、働きゃいいじゃねえかって銭貯めりゃ言葉悪いですけどね、売り物買い物上臈なんだって銭貯めりゃ必ず会えるんだって言われて・・・あんときはあの言葉に縋るより手がなかったから一所懸命働いた。あっしだって馬鹿じゃありませんからねえ・・・働いた、だんだん銭が貯まってくる。銭で会える人か会えねえ人か分かってきます。分かってますけどね、会えねえんだって決めちゃったらまた自分がどうにかなっちゃいそうで。だんだんだんだん金が貯まってきたんです。貯まったんです金が。もしかすると会えもせずにこの金がふいになるかもしれねえ。それでも会える望みがあるのならって、また皆に迷惑かけて・・・この騒ぎでようやく・・・会えました。ありがとうございます。勝手ですけど三年経ったらまた来ます。いえ、全盛の花魁だ。どこの大名の御妾さんになるかもしれねえ。お囲いになるかしれませんが、もし、金が貯まってきたときに花魁が見受けされてたらあっしはこれが最初で最後これっきり。だけど元気で生きてりゃどっかで元気生きてりゃ江戸の空の下で花魁に会えるかと思うとあっしは生きていけます。そんときに花魁、もし会ったときに木で鼻を括ったようににぷいっと横向いちまわねえで、一言でいい、久さん元気? ってそう言ってくれませんか? その一言で生きていきます。騙してすいません。勘弁して下さい。
    気だるそうな顔して煙管の吸い口額に当ててこう聞いてた高尾が聞き終わった途端にぷいと横向いた。ぽーんと煙管を放るとぽろっと一粒涙をこぼしてそいつの滴を切るってえと
    高尾:その御話は本当ざますか?
    久蔵:この染まった手は紺屋の職人の手です・・・口を聞かなかったのもお里が知れるから
    高尾:分かりんした。わちき来年三月十五日年が明けたら、眉毛落として歯に鉄漿(かね)染めて、主の元に参りんすに、わちきのようなものでも主の女房はんにしてくんなますか?
    久蔵:・・・あいあい
    高尾:わちき主の女房になりたいんざます
    久蔵:そんなこと言うとこんな男だからまた本気になって
    高尾:主の正直に高尾は惚れんした。
    キッと横向くと後日の証拠にと刺していた簪をこう抜いてくれて手ぶんこから財布。中に三十両。なんと亭主の待遇でもって、久蔵を送り出した。久蔵なんだかわかんなくなっちまって。
    久蔵:トントントントン(ドアを叩く) だいぶだいぶまいりかえりあした トントントントン たらいぶあいりまいりあいりました トントントン たらいらいったらいったらいりらいりらった
    親方:相撲の巡業か? こんな早くに行司ってのは来るのかい? 開けろ開けろ。なに? 久蔵? おっ、久蔵! こっちこい!!
    久蔵:ただいま戻りました!
    親方:おうおうおう、振られたろ?
    久蔵:いえ、いい天気ですよ?
    親方:高尾に会えなかったろっつってんだ
    久蔵:ああ、会えた。親方会えました。ありがとうございました。会えました。高尾があっしに向かってにっこり微笑みかけてくれました。
    親方:知らねえんだお前。違うんだよあれはね、振袖新造とか留袖新造色々いるんだよ来るわけねえじゃねえか
    久蔵:来たよ来た。来ました。本当に来ました。嘘でねえ証拠があるもの。ほら、高尾からこれ貰ってきましたこれ!!
    親方:なに貰ってきたんだよ。なになに? 勘定書きか?
    久蔵:違う違う
    親方:何だこれ。へ? 高尾が頭に刺してた簪? うそ? 本当? なんだこの財布。え? おめえこれどうしたんだい。何だこれ!
    久蔵:何だか分からないけど、高尾があっしの顔をじっと見てね、ああこう言ってましたよ。えぇ、わちき来年三月十五日年が明けたらそのときのは眉毛落として歯に鉄漿(かね)染めて主の元に参りんすに、わちきのようなものでも女房はんにしてくんなますかとこういうざますよ親方。わちきはいったいどうしたらいいでありんしょう
    親方:なっ、まともな人間駄目にしちまっただろ? なっ、よせって。お前な、いいか? えっ? なんで花魁っていうか知ってるかお前、狐っつうのは人を尾で騙すんだよ。尾がなくても人を騙すから花魁っつうんだ。駄目だこんなもの触っちゃ駄目だ。俺が預かってらあ。お前先生どうしたんだよ。
    久蔵:あっ、置いてきちゃった
    親方:馬鹿野郎お前、あの先生が恩人じゃねえか。いいや、あの先生帰ってくると人が死んじゃったりするからな。久蔵、会えたな。
    久蔵:はい!
    親方:夢が叶ったな!
    久蔵:はい!
    親方:働けっ!!
    久蔵:はいっ!!!
    さあ大変だ今度は来年三月十五日に高尾が来る。来年三月十五日に高尾が来る。来年三月十五日に高尾が来る。来年三月十五日に、もう誰も久蔵とも久こうとも
    親方:おい! 来年三月十五日! 早く飯食って寝ちゃえ!
    久蔵:では、来年三月十五日に!
    その年も暮れて、睦月如月弥生と過ぎて、真ん中の五日。うん、結構な黒塗りのよつでの籠が。ほい籠ほい籠ほい籠ってんでつーっと入ってくるってえと垂れ開けて出てきたのがなんと一番の丸髷でもって眉毛落として歯にかね染めて、すーっと立ったのが三浦屋の高尾。小僧に向かって
    高尾:でっちどん、御当家に久蔵はんと申すお方がおりんすに、わちきが来たと伝えてくんなまし
    小僧:親方ああああああぁぁ!! 親方あああぁぁぁ!!
    親方:もう辞めろよもう。うちが町内で評判なんだお前。小僧ぐらいしっかりしろよこんちくしょう。本当に。なんだよ。
    小僧:大変なものが来ました!
    親方:なに?
    小僧:え、えらいもんが!
    親方:ミサイルか?
    小僧:ミサイルじゃねえですよ! それよりてえへんなもん、あの、あの、来年三月十五日が来ました!
    親方:なに?
    小僧:三月十五日が来ました!
    親方:十四日の後は十五日! 十五日の後は十六日! 当たりめえじゃねえか! ああん? なにを? うるせえなどけ! よいしょ。久蔵! 久蔵! 高尾が来たぞおおお!!!
    二階に向かって叫んだら二階で久蔵がうわああああああ。なんだかわけのわかんない叫び声を上げるってえと梯子をだだだだだだーっ!と駆け下りてくるってえとそのまんまぴょーんぴょーんぴょーんっと親方の頭の上飛び
    親方:なにしやがんだちくしょう!
    土間に足が掛る、二足三足がくぞうっと腰が砕けたところに高尾の帯に手がかかって
    久蔵:花魁、待ってました
    高尾:三月十五日ざましょ?
    久蔵:はい。うぅうぅ、待ってたんです!
    高尾:久さん
    久蔵:はい!
    高尾:元気?
    うぅううぅううう、ぐすっ、いい話だなぁおっかあ!
    女将:おまえさんかよ! 久ちゃんだと思うだろ! あらまぁねえ、へっへっへっへっ、よかったねぇ。皆あたしのおかげ
    親方:お前何もしてねえ!! お前のおかげで壊れそうになったんだよ!
    そら、夫婦になるのに異論はありませんで親方が間に入ってめでたく。さぁこれから二人が暖簾を分けて貰って、染物屋。紺屋をやり始めた。大変な評判になって

    おう、元ちゃん!
    なんだい
    知ってるか、あのよう! 久蔵って
    知ってる
    紺屋抜き
    知ってるよ
    高尾を嫁にもらったってさぁ!
    驚いたね
    驚いたもなにもねえんだよ。たいしたもんだよ久蔵ってのは、ねえ! 三年貯めといてね、それを一晩でビシッといったつうんだよ。あれだな、俺たちゃちょびちょびいくだろ? 男勝負かけるときはやっぱり元手からビシッとそろえてよ、それでズターンといってな! そりゃ大事なとこだよ、うん。
    なに反省してんの? なにが言いてえんだ
    なにが言いてえつったらよ、なにが偉いつたって高尾が偉えったら
    そりゃそうだよな、三浦屋の高尾だよ。どこにだっていけるんだ。それがよりによって選んだのが紺屋の職人だってんだから。こら久蔵も偉いけど高尾も偉い
    そうだろ? そうだろ? 二人偉いだろ? 高尾がもう一つ偉いことがある。
    なにしてんの?
    なにしてんのってね、二人でもって店やって、高尾が指先藍色に染めて、えぇ? あれ一緒になって働いてるよ!
    へぇー、たいした、たいした了見だよ!
    行くだろ?そうするってえとね、また来てくんなまし。なーんっつうんだよ! えぇ? 三浦崩落っつうんだ! ただだよ! 見に行こうよ!
    よせよ。おめえ江戸っ子だろ? んなみっともねえ真似。ただで見るなんて江戸っ子の名折れ
    分かってる! そこに抜かりはねえんだよ! だからさ、俺は行く時はね必ず染物持ってってまた来てくんなましって言われてるんだよ。おかげでうちは真っ青。もう真っ青。ちかちかしちゃって。何にもねえんだ。仕方ねえからね今日はふんどし。
    汚ねえな!
    行くか?
    行こう!
    なんてんで門前位置を成したと申します。えーっ、この二人、沢山の子を儲け、ともしらがまで添い遂げたとこう申します。傾城に真なしとは他が言うた。真あるほど通いもせずに振られて帰る野暮なお客の憎手口。江戸の昔から伝わります紺屋高尾の一席でお時間でございます。
    スポンサーサイト



    ちょっとまだ書いている途中だけども、外部からこの文章を確認したいので、一旦公開にしておく。
    小声で親方と女将が話す下りを入れる必要があるのだが、実際に言葉に出すとなるとどうなるもんか。難しいのう。

    親方:辰
    辰:へい
    親方:久蔵どうしたい
    辰:寝てます
    親方:なに? 寝てる?
    辰:患ってます
    親方:患ってる? ふーん、なんでい、えっ? 風邪か?
    辰:何だか知りませんけどね、今日で仕事三日降りきませんしね、飯も食いませんよ
    親方:飯食わねえ? おぉ? よーし分かった、行ってくるよ。よいしょ。 トントントントン(ドアを叩く)開けるよ。おう、どうしたい。えっ? 具合悪いって風邪か? 大丈夫か?
    久蔵:あぁあ・・・はい・・・あぁぁ・・・はぃ・・・
    親方:なにをこんちくしょう。病人らしい声出して同情引こうたってそうはいかないよったく。えぇ? 風邪ぐれえで休んじゃ駄目だよ。うん、やめえは気からってな。元気出せよ。
    久蔵:ありがとうございますが、私はもう今度という今度はもう助からねえ。さらばでござんす。
    親方:なーにがさらばでござんす何処で覚えてきやがった言葉を。えぇ? 死ぬわけねえだろ人間だったらやめえで死なねえ寿命で死ぬもんだってとてもおめえ寿命来てるとは思えねえわな、んん? 悪いとこあったらそう言ってろ。えぇ? 俺に言たっていいカカアに言ったっていい。誰に言ったていい薬買ってくらあ。先生呼んできてやろうか? えぇ? 何処が悪いんだよ。
    久蔵:医者だとかそういう薬じゃ治らねえんです・・・
    親方:治らねえって? んじゃ、なんなんだい。
    久蔵:ですから、いいんです・・・
    親方:よかねえよ。心配だから。おい、心配させんなよ。言ってくれよ。
    久蔵:言って・・・言っても駄目ですけど・・・お医者様でも草津の湯でも・・・
    親方:なんだよ、どっかで聞いたような文句だな。知ってるよ。お医者様でも草津の湯でもーどっこいしょってんだろ。惚れた・・・えっ、ちょっと待ってくれ。そこに繋がるのか?
    久蔵:ああ・・・はい・・・
    親方:余計だってこんちくしょう。この野郎。ああ、そうか。へぇー、驚いたね。昔から鯉の撹乱鯰の脚気、恋の病で恋煩いってなことを言うがな、うん。そうかそうか、ふーん、いいよ。なあ、お前なんぞどっちかっつうと変にかてえ女ってのを知らねえのか綺麗なのかって心配(しんぺえ)したこともあるが好きになるってのは当たりめえだ結構じゃねえか。だけどおめえ片思いってのはどうにも気に入らねえよ。うん、片思いってのはうん、よくは知らねえけども御屋敷の中にいる奥の方にいるお嬢様ってのが惚れた男が出てくる。それを会いてえたって口にもだせねえ。これが恋煩いってんだな。職人が患うような病気じゃねえよそんなものはな。あぁ? 好きな女がいるんなら行って、連れてきてやっちゃえ。うん、なんなら俺が手伝ってやったっていいよお前。後で俺が、いやそりゃ嘘だけども。何処の誰だい?
    久蔵:それは勘弁してください・・・
    親方:そんなこと言うなよ。勘弁できるだけ言ってくれよ。
    久蔵:もう・・・聞かれると・・・面目なくて・・・親方になんて言っていいか・・・もう身の程知らず・・・
    親方:おぅ? 身の程知らず? 面目ねえ? えーっと待てよ。おう、言わなくていい。だいたい分からぁな。面目なくて身の程知らず。分かった。おい! ちょっとお滝あがってこいこっちへ! いいからあがってこい! いいから! あがってこいあがってこいあがってこい、うん。そこに座んな。おめえな、若い者の面倒見るのありがてえ。結構だけども、度が過ぎると向こうが変な気起こすから気をつけろってこう言ってんだ。え? おめえに惚れちまった。片思い。俺に面目ねえって患いついちった。そうかよおい、しょうがねえなあ! うーん、正直なところおめえにやっちまっても構わねえようなもんだけどな。そうもいかねえな。じゃあ、どうしよう。半分ずついくか、なっ。おめえが昼間いくと、俺が夜いくとかな。おーう、一日置きにい
    久蔵:女将さんなんかに惚れるわけないじゃないですか
    親方:下に行ってろ。誰が上がってこいつったこの野郎! うん、じゃあ誰だい。言えよ。言えよ。助けてくれよ。俺おめえ好きなんだ。おめえに患われってると俺が参っちまうよ。なっ、頭下げてもなんでもするから一つ言ってくれ。
    久蔵:すいません。そんなつもりじゃねえんです・・・話はしますから聞くだけで流して下さいよ。
    親方:おう、まあいいよ。
    久蔵:ええ、お願いします。実はあっしは五日ばかり前に兄弟子に連れられて初めて吉原の大門ってのをくぐったんです。
    親方:うん、うん、うんうん。年は幾つだい。25だろおめえは。えぇ? 遅せえはな。それがどうしたい。
    久蔵:うぅ・・・入ったところがあの、中野町ってんで
    親方:知ってるよんな改めて言われなくたって。うん、
    久蔵:それで人がごろごろごろごろかけてくるんです。なんだなんだと行ったら花魁の道中ってのを初めて見ました。えぇ、その花魁道中の綺麗というかこの世にこんなものがあるかという、えぇ、その明るい
    親方:明るいわなおめえ
    久蔵:夜です
    親方:分かってるよ。不夜城ってんだからな。うん、昼間ばっかりってなところだよ
    久蔵:それで出てくるのが何屋の何某とかどこそこの誰
    親方:うん、皆そら売れっ子が出るんだ
    久蔵:で、天人が天下ったような、綺麗な人が次から次へ。これが人間かと思うような綺麗な女の人が出てくる。綺麗綺麗の中にひ、一際目立つ良い女! あっしがじーっと見ていたら、そしたら目がパッと合ったんです。合ったらあっしに向かってニコッと微笑みかけてくれたんです・・・
    親方:いいじゃねえか、病治っただろ
    久蔵:聞いたら三浦屋の高尾だってことを聞きまして。どんなもんだ売りもんだ。ああ、あれが売り物買い物ならなに一日と言わなくてもいい。一時でも半時でも小半時でも共に過ごしてえと言ったら兄弟子に笑われた。てめえ職人のそんなもの相手にできるものじゃない。大名堂無といって松の位の他夕食とかその大名だって頭(かぶり)横に振ったら相手にできないという位の高い者。職人なぞ及ばぬ鯉の滝登り。家に帰ってしょんべんして寝ちゃえって言われて、親方、家に帰ってしょんべんして寝たんです。ええ、とてもとても。しょんべんは出たけど寝られるものじゃねえんですよ。目え瞑ると高尾がこう浮かんでくる。うん、こう相手も暗い所に高尾が浮いてくるんです。えぇ、飯を食おうかなと思うと高尾と思うと喉に通んなくなった。なに見ても、もう高尾しか思えねえんですよ・・・こう親方の顔見てるとだんだん親方の顔が高尾に・・・高尾おぉぉぉ!!
    親方:近づいて来るんじゃねえよこの野郎! ちくしょうめ、ええ? 馬鹿なことすんない。
    久蔵:まあ、そういう・・・そういうわけで・・・えぇ、会おうたって会えねえ。もうしょうがねえ。あっしは面影抱いて死んじゃおう・・・いや、死ぬつもりはねえが、こうなりゃもう死ぬよりしょうがねえ。どうしようもなくなって・・・
    親方:たぁー! ようし分かった。良く言ってくれた。うん、だけどおめえよ。うーん、その通りだよ。なっ、兄弟子の言う通り、なっ。及ばねえんだから。身分が違う。及ばぬ鯉の、なっ。向こうは入り山形に二つ星松の位の他夕食。えぇ? こっちは紺屋の職人風情だ。その通りだと思うよ。なっ、んなくだらねえこと言ってんじゃねえ。夢みてぇなこと考えてねえでさっさと飯食って働け! 分かったな?
    久蔵:あぁ・・・はい・・・
    女将:ったくだからお前さんは馬鹿なんだよ。話は聞かせてもらったよ
    親方:おめえ下に行ってろつったろ! 盗み聞きしやがってこの野郎!

    女将:そんなもの売り物に買いもの、売るって言ってるんだから買えばいいじゃないの。
    久蔵:買えるんすか・・・?
    親方:(小声)お前なぁ! お前よくそういうこと言うね。そんなこと言ったらあんな奴だから本気にしてあてにしてあとでとんでもないことに
    女将:(小声)だから子供なんだよお前さんは嫌になっちゃうねえ。
    親方:(小声)何がやになっちゃうだ
    女将:(小声)何が嫌になっちゃうってお前さんねえ。三浦屋の高尾だよ相手は。はしかみたいなもんなんだよ。ええ? 会うには大変なお金がいるって言えばいいの。ねっ、一所懸命働けって、大変なお金を言やいいんだよ。一所懸命働いているうちにあの子はね、元気な男なんだよ? そんな会えるか会えないか分かんないような女にね生涯惚れられてるわけないじゃないか。えぇ? そうだろ? 脇を見てごらんよ。そこら辺にいいのがいるんだねぇ。伸ばせば手の届く華が。なぁー、そうなったらあたしの出番だね。あっはっはっ、誰がいいかね、久ちゃんはね。腕も立つしまじめだしね。えーっ、どこの子に町内の子だったらあの、糸屋
    親方:(小声)お前やり手ばばあかお前。じゃあ、いいのか本当に。大丈夫か。お前が言ったんだからな。
    女将:(小声)大丈夫だよ。
    親方:久蔵、おめえ会いてえのかい
    久蔵:・・・はい、会いてえです
    親方:なに? お前会いてえんだったら売り物買い物如雨露じゃねえか。幾ら銭かかるか分かんねえけど会えるよ会えばいいじゃねえか。
    久蔵:本当ですか
    親方:はい?
    久蔵:会えるんですか
    親方:会えるよ
    久蔵:会います
    親方:会いますってけど、ちょうだいなつって持ってって買えるようなそういう銭じゃねえんだぞ。ええ? 大変な銭だぞ。
    久蔵:幾らかかるんすか