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    喧嘩するほど仲が良いなんてえことを言いますがね、長屋の夫婦喧嘩なんてえのは凄まじいもんで。大抵、そういうとき間に入って苦労するのが大家さんと相場が決まっております。
    八公:今すぐ出てけ、馬鹿野郎っっっ!!
    お先:出てきゃいいんだろぉー!!
    八公:二度と帰ってくんじゃねえぞ!!!
    お先:誰が帰って来るもんかこんな家!!!
    大家:およし、およし、およしっ。お、おいっ、おやめ、やめ。なんべん喧嘩すりゃ気が済むんだお前たちは。今日も朝から三回目の喧嘩じゃないか。その度に近所が迷惑してんだよ。おい、八公、八公。お前その金槌を下ろせ金槌を。そんな危ないもの振り回すんじゃないよ。お先さん。ノコギリを引っ込めな。いくら大工の家だからってかみさんがこんなもの持ち出しちゃいけないよ。さぁ、お先さん、着物を合わせな。襟元が乱れてるじゃないか。目のやり場に困るんだよ。えぇ? 今日はいつにも増して、どういう訳で喧嘩が起こったんだい。その訳を話してみな。
    八公:はぁっはぁっはぁっはぁっ、えぇ?
    大家:えぇじゃないんだよ。喧嘩の訳を話してみろってんだよ。
    八公:そらねえ、これだけのことを騒ぎするんだい。喧嘩の訳があるに決まってらあ!! はぁっはぁっ、あれ?
    大家:あれ? というやつがあるか。喧嘩の訳を聞いてんだよ。
    八公:喧嘩の訳ってえのはね、訳はね、おい、訳なんだっけ?
    お先:なんだっけだって冗談じゃない。大家さん聞きました? この男はこういう人間ですよ。これだけの騒ぎを起こしといて喧嘩の訳がなんだっけって、そんな言い種あるかい!
    八公:しょうがねえじゃねえか。出てこねえもんは。だったらてめえが言え。
    お先:そんなことこっちも忘れちまってんだい。
    八公:なんだとこの野郎。
    大家:おいおいおい、いい加減にしておくれよ。おい、八公。お前もな、一家の主なんだ少し落ち着いて考えてみたらどうだい。
    八公:だからね、あっしがいっつも色々、考えようと思うときにこの野郎がぐずぐず抜かすから話しがおかしくなるんだよ。だからなんですよ。喧嘩ってえのはあっしが家にけえってきてから始まったんですよ。家にへえるとね、この野郎が台所で生の大根切ってやがった。だから飯はまだかと思ったから、湯に行ってくるって言ったんだ。そうだ、それを言ったらこの野郎が弁当箱出しておいてくれって。洗わなきゃしょうがねえからね。出しましたよ。(間を空けて)そうだ。思い出した。弁当箱を出したときだ。そんときにあっしが、梅干し飽きたから沢庵にしてくれ。こう言ったんだよ。そしたらこの野郎が、親の仇に出くわしたかのような顔しやがって、何もういっぺん言ってみろおおおおぉぉぉ! 男のあっしが言ったんじゃねえんだ。この野郎がぬかしたんだ。んなこと言われたら、てめえこそもういっぺん言ってみろおおおぉぉ!!! 金槌を振り上げる。そうだ、それが喧嘩になったんだ!! だから、喧嘩の元をはっきり言えば、沢庵です。
    大家:ちょっと待て。沢庵ぐらいのことでこの大舘回りをしたのか? 呆れたもんだな。お先さん、お前もそうだよ。えぇ? 亭主が沢庵食べたいと言ったらそれぐらいのものやったらどうだい。
    お先:大家さん……大家さん! あたしがね、沢庵の一枚や二枚でこんな騒ぎを起こす女と思いますか? 大家さん、まあああぁぁぁああたしの話も聞いてください。確かに、この人が帰ってきたときあたしが、台所で、生の大根刻んでた。それはその通りですよ。いつもだったらこの人何も言わないでスーッと家に上がってくるのに、今日は上がりが遅いなと思ったら、障子の桟(さん)のとこじーっと見て、指先ですっとやって、そのほこりの付いた指先を見て、あたしに聞こえるか聞こえないような声でもって、それでもあたしにはしっかり聞こえる声で、「きたねえなぁ。」 こんな嫌味な言い方あります? 男ならきたねえから掃除をしろ。一言いえばいいじゃないですか。それをあたしに聞こえるか聞こえないような小さい声で、それでもあたしにはしっかり聞こえる声で。きたねえ。あたしカチンときたんです。だけど、そんなことで怒っちゃいけない。あたしね、黙って生の大根刻んでたんです。そうしたら、今度はあたしのやってること肩越しに見て、また聞こえるか聞こえないような声で。それでもあたしにはしっかり聞こえる声で、「飯まだみてえだなぁ。」 まだに決まってるじゃありませんか。生の大根で何が料理なんです? 分かりきったことでしょそんな嫌味な事を言われて、あたしだって毎日遊んでるんじゃありません。家の用事をして、子供の面倒を見て、さらに内職が溜まってる。あたしの方が嫁さん貰いたいんです。そんな嫌味な言い方されて、本当に。これあたしだから辛抱できましたけど、世間の普通の嫁さんだったら、持ってた包丁で、ぶすっ!!
    大家:おいおいおいおい、分かった分かった。落ち着きなさい。話の続き言ってみなさい。話の続き。
    お先:それでね! この人が湯に行ってくるってそういうから、あたしはとっても丁寧に、それじゃあ子供も連れてって頂戴。そうお願いしたんです。そしたらこの人、さも嫌そうな顔をして、「なんでえまたかよ」。よそ様の子じゃないんですよ。我が子です。それを湯に連れて行くのにまたかよ。それだけならまだ許せる。それじゃ、連れて行くから幾らか煙草銭くれ。何処の世界に我が子を湯に連れて行くのに料金取る親がいるんです。苦しい所帯一所懸命やり繰りして、煙草銭渡してんのに、もうほんっとこの人はあぁぁぁぁぁ!! なんです? 梅干しと沢庵? ああぁぁぁ! 思い出してきた! 腹立ってきた!! これが一番大事なところなんです。じっくり聞いて頂戴。あたしね、近所のお年寄りに聴いたんです。梅干しが身体に良いって。ですからこの人のことを思って一所懸命に漬けました。世の中なにが大変って梅干し漬けるぐらい大変な事ない。蔕とるだけで3日掛かりました。それでもこの人のためと思って苦労して、「漬けた梅干しが飽きたから沢庵にしてくれ」と言われたとき、あたし今まで抑えていたものがいっぺんに弾けて、何もういっぺんに言ってみろ!! つい、出たんです。だけど、こう言いたくなるあたしの気持ちを大家さんなら分かって下さいますでしょ?
    大家:いや、話しというものは聞いてみないと分からない。もういっぺん言ってみろまでそれほどまで歴史があったとは。八公、今の女房の台詞を聞いたか。お前の事を思って一所懸命だ。なぜそれに応えてやることができない。なんだ。真っ青な顔をして下唇噛んで。えぇ? あんまり勝手な事を言うもんで、腹が立って唇を噛んでる? じゃあ、何か。お前、今の女房の言ったことを聞いた上でまだ言い分があるというのか。へぇ、これは面白いな。あるのだったら腹に思ったこと全部言ってみな。
    八公:それだったら言わせてもらいますけどね、たっぷり聞いてくれ。あっしがけえってきたそんときにかかあが生の大根刻んでたそれはその通りだ。けえってきたら家の中がなんとなく埃っぽいんですよ。考えもしねえで俺は障子の桟(さん)のとこを指先ですーっと撫でた。先を見たら埃が付いてる。それを見たまま、思ったまま、ありのまま素直にきたねえな。これが嫌味ですか? 嫌味というのは、指先の埃を見てああ綺麗だなぁ。これは嫌味ですよ。これを見て綺麗と言ったら嫌味だよ。それを見たまま、思ったまま、ありのまま素直にきたねえな。嫌味でもなんでもねえ。その後もそうだ。肩越しに見たらかかあが生の大根刻んでるから、これもそれを見たまま、思ったまま、ありのまま素直にあっ、飯はまだみてえだなって芯から思ったからそのまま口に出した。これ嫌味ですか? 嫌味じゃねえですよ。かかあが切ってる大根つまんで、あぁちょうど食べ頃だなぁ。これは嫌味ですよ。あっしは見たまま、思ったまま、ありのまま素直に飯まだみたいだなあ。これを嫌味と言われたら、夫婦の話し何一つできねんだよ。じゃあしょうがねえや。飯がまだみてえだから湯に行ってくる。そう言ったい。そしたらこの野郎が、意図も簡単にあっさりとまぁ、それじゃあ子供も連れてって頂戴。大家さんよく知ってますよね。あっしんところは八つ頭に子供九人いる。それ纏めて湯に連れてってごらんなさい。晩飯どころか夜食にも間に合わねえ。この間空きっ腹にそんなことしたもんだから、湯屋で倒れて戸板で運び出されたんだい。それでも五回に三回はあっしが連れて行くんだ。煙草銭ぐらいねだったってバチは当たらねえでしょ。梅干し? 梅干し? 思い出しただけで腹立ってきたあぁぁぁぁああ!! それが一番肝心。よーく聞いてもらいてえ。大家さんのめえだがな。あっしは決して梅干しがきれえじゃねえ。どっちかと言うと好きでし「た!!」。日にいっぺんぐれえなら。弁当のおかずに入れてくれるぐらいなら文句は言いやせん。喜んで頂きますけどね、そんな生易しい話じゃねえ。くる日もくる日も朝昼晩三度三度、梅干しだらけ。昼のおやつから晩酌のつまみまで梅干しが出てくる。この野郎、録な女じゃありませんがねえ。梅干しの料理させたら日本一だ。梅干しの混ぜご飯。梅干しの天ぷら。梅干しの唐揚げ。梅干しの肉転がし。梅干しの吸い物。梅干しの酢の物。この間なんか梅干しの一夜干しって訳のわかんねえもんだした。ただの種だよ種。この間、一昨日弁当箱取ったら、家は日の丸じゃあねえ。赤旗弁当だ。白地がまるでねえんだ。あっしね、梅ノ木見ただけで唾が沸いてくるんだ。梅干し飽きたから沢庵にしてくれてえあっしの気持ちを大家さんなら大家さんなら分かってくれるでしょう!! うええぇぇぇええ(泣く)
    大家:分かった分かった。泣くんじゃない。分かった分かった。お前たちは仲が悪いんじゃない。仲が良すぎるんだよ。遠慮なく自分の想いを相手にぶつけちまう。それでもって揉め事が大きくなる。まぁ、世の中にはな、堪忍袋というものがあるそうだ。ただしこれはね、誰にでも出来るもんじゃない。腹に貯まった不平不満がある人が一生懸命心を込めて拵えると、百回に一回。千回に一回の割合でその袋が出来る。その袋に腹立ったことを言って、緒をきゅっと閉めると胸がすっとして喧嘩もなく仲良く暮らせるというんだな。まぁ、そんなものはなかなか出来るもんじゃあないそうだが、試みでもやってみたらどうだい。また何かあったら来るがね。程々にしておくれよ。
    八公:あい、どうも、ありがとうございした。すいませんでした。どうも、へい。すいませんでした。おい! 大家さんが来たらすぐ茶ぐれえ入れろ。
    お先:茶碗をお前さんが割ったんだろ。
    八公:あっちこっち散らかってんじゃねえか。掃除をしろ。
    お先:あたしは堪忍袋を縫ってんだよ!! 忙しいんだよ。見て分かるだろ。
    八公:縫え。心を込めて縫え。もしてめえに心なんてものがあったらの話しだがな。
    お先:勝手な事言いやがって。文句があるならあんたがあたしに言ったことみんな言ってやるんだから! 忘れたとは言わせないよ。本当に。 あたしの奉公先に出入りの職人として来てて、昼飯のときにお茶を入れてやった。たったそれだけで勘違いして。「おめえの気持ちはわかってる。目が合っただけですぐに惚れてるって分かった」 あたしを無理やり横手の蔵に連れ込んで、「おまえ、家に嫁に来てくれ。惚れてんだろ。」 もじもじもじもじしてたら、「恥ずかしがらんででもいい」 嫌がってたんだよ!! そんなことも分からないで勝手に勘違いして。 「家に嫁に来てくれ。おめえが嫁に来てくれたら何にもしなくていい。なっ、座ってるだけでいい。なっ、家に嫁に来てくれ。おめえが家に来てくれなきゃ俺は死ぬー!」 って、あんとき死んでたら良かった!!
    八公:うるせえな!! 早く縫え!!
    お先:ほら、縫えたよ!!
    八公:放り出すやつがあるか。遠くにいるんじゃねえ、そばにいるんだ。手渡ししたっていいじゃねえか。てめえ、こんちくしょう。こんちくしょうめ。馬鹿野郎!! ちくしょうめ!!! 今日は大家が止めてくれたから勘弁したんだぞ! そうじゃなきゃ半殺しの目にあったんだ。これからもあることだぞ、亭主を亭主らしく立てねえと承知しねえぞこの野郎。ま、豆大福、潰したような面しやがって、このぉ。大福あまの、ぺっちゃんこあまぁーっ!!! シュッ。へっへっへっ。
    お先:なにいい顔してんのよ。貸してちょうだい。言いたいことがあるんだから山程。毎晩、毎晩、遅く帰ってきやがってぇ。えー、どこぉ、のたくって歩いてやがんだ、どっかの飲み屋の女の穴(けつ)ばっかり追いかけ回しやがって。帰ってこねぇなら、帰ってこねぇでいいから、生涯、帰って来るなぁっ。この、スケベ野郎ぉーっ!!! シュッ。ひっひっひぃ。
    八公:揉めないな。
    お先:揉めないね。
    八公:ああ、じゃあ堪忍袋出来たのかもしれねえな。
    滅多に出来るはずのない堪忍袋が上手いこと出来上がったとみえまして、夫婦仲の悪かった二人が仲良く暮らしてまして、その噂が広まったもんですから、方々から今度は堪忍袋を借りに来る人が山ほど集まってきて、もう袋がぱんぱんに膨れまして。
    お先:あぁあぁあぁ。あんた、えらいことになったよ。
    八公:横手の川に流してきたらいいじゃねえか。
    お先:そうはいかないよ。世間に言えないことがはいってんだからさ。
    八公:じゃあ、国会なんかでそれぶちまけりゃいいんだ。あそこはやじだらけだから誰も気づかねえよ。
    お先:でも他に良い捨て場所ないか大家さんに聞いた方がいいんじゃないかい?
    八公:それもそうだな、それなら大家さんに聞いてみようじゃねえか。
    お花:ごめんくださいまし。ごめんくださいまし。
    八公:へいへい。どちら様?
    お花:隣町の伊勢屋でございますが。
    八公:伊勢屋のお花さん? おお、こりゃどうぞどうぞ。
    お花:夜分誠に失礼いたします。こちら様に堪忍袋というものがあるそうで。是非お貸し頂きとうございます。
    八公:あなたが? いやぁ、要りませんよ。お宅の悪い噂一つも聴いたことありませんよ? 姑さんと上手くいってて、夫婦仲良くて、もうお子さんもすくすく成長。ご商売は大繁盛。それでも何かあるんですか?
    お花:誠にお恥ずかしながら、ほんの些細な事で御座いますので、どうぞお願い致します。
    八公:些細な事ですか? でも大丈夫かなぁ。今こういう有り様なんですよ。まぁでも些細な事なら端の方にちょっとだけ入ります。まぁまぁどうぞお使い下さい。
    お花:有り難う御座います。それではほんの端のちょっと拝借させて頂きます。直ぐに済みますので。有難う御座います。おっほっほっほっ。糞婆死ねええぇぇぇ!!
    八公:何処が些細なんですか!! 今下の方がミリッと言いましたよ!!
    元:おう、いるかい!
    八公:誰だ誰だ。
    元:俺だ。
    八公:おう元ちゃんか上がれ上がれ。どうしたい。
    元:どうもこうもねえんだよ。えれえこと起きたんだよ。隣町の伊勢屋。えっ、お花さんそこにいたんすか。大変だよ。お宅の姑さんひっくり返っちゃってね、医者に担ぎ込んだんだけど、なんだか胸に溜まった何かがある。これを吐き出させないと命に関わるってんだよ。それで思い付いたのが堪忍袋だよ。すまねえが貸してくんねえか。
    八公:あぁ、これ。やめた方がいいなぁ。いや、さっきまで隙間があったんだけどよぉ、今大きいのがズシンと入っちゃって。
    元:いいじゃねえか。人助けなんだから貸してくれよ。
    引ったくるように受けとりまして、これをずるずるずるずる引きずって姑の枕元。
    元:ようやく持って来ましたよ。えぇ、この中に何でも言って下さい。
    出した途端、ぱんぱんに膨れあがっていた堪忍袋が我慢できなくなったとみえまして、この緒がぷつーんと切れた。先程入れたばかりの一番新鮮な糞婆死ねー! この言葉を聞いて姑さん、元気になりました。


    とりあえず、上方ベースで改変してみた。ところどころまだ上方の訛りが残っているかもしれない。
    堪忍袋に罵声を入れるところはあともう一掛け合い入れたいところだが、思いつかなかった。

    とりあえず、これで覚えて喋ってみるので、また所々に変更点が出てくるだろうと思う。変更点が出たら気が向いたときに更新していく。
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    今日も夫婦喧嘩が激しく始まるところから話しを聞いてもらいますが
    八公:出ていけあほんだらあぁぁぁ!!
    お先:出ていったるわ!!
    八公:二度と帰ってくんな!!
    お先:誰が帰ってくるかこんな家!!
    甚平:ちょっと待った待った待った。よう喧嘩する夫婦やなお前んとこは。今日も朝から三回目の喧嘩やないかい。近所が迷惑すんねや。その度にな、徳さん、金槌をおろしい。そんな物騒なもん振り上げて、当たりどころが悪かったらえらいことなるで。お先さん、あんたも着物直しや。襟元が乱れてあるやろ。ほんまに目のやり場に困るやないかい。えぇ? 今日はいつにも増して一体喧嘩の訳っちゅうのは何や!
    八公:はぁっはぁっはぁっはぁっ、えぇ?
    甚平:えぇやあらへんがな。喧嘩の訳はなんやとわしは聞いとんねん。
    八公:け、喧嘩の訳でっか! はぁっはぁっ、あれ?
    甚平:あれあるかい。喧嘩の訳を聞いとんねん。
    八公:はぁっはぁっ、忘れてまいました。
    甚平:忘れたて難儀やなおい。冷静になっていっぺん、ようもっぺん考えてみい。
    八公:わ、分かりました。甚平さんすいませんでした。もうわて冷静になりますわ。えらいすいません。へへっ、ええっとね、そうや。わて仕事から帰って来ましたんや。へい。ほならこのおなご台所で生の大根切ってますさかいに、あっ、こらまだ飯食えんなと思ったんで、先風呂行ってくるわ。ほなこのおなご、風呂行くの構へんけど、それやったら弁当箱出しとんか。水に浸けとかんと米粒がとれにくいさかい。そんなことぐらいわて分かってまんがな。弁当箱出ししなに、すまんけど明日のおかずは塩こぶにしてくれんかとこない言いましたら、そうや。そこでわたいが塩こぶしてくれるか言うただけやのに、このおなご急に目ぇつり上がってからに、何を馬鹿いうてめぇえええ!! これわてが言うたんとちゃいまんねん。こいつが言いましたんや。そんなこと言われて黙ってているわけにはいきまへんがな。お前はなんちゅうもの語彙をさらすんじゃあほんだらぁああいうて金槌を振り上げる。そうや!! それが喧嘩となりましたんや! せやから、喧嘩の訳を強いて言うたら、塩こぶですわ。
    甚平:ちょっと待て。どうもならんな。ほなお前、塩こぶみたいなもんが原因でこれだけの大舘回り。お先さん、あのな、あんたもな、旦那が塩こぶ食いたい言うてんねん。えぇ? 塩こぶぐらい食わしたったらどうやねん。
    お先:情けないわこの人! ほな、何か? 塩こぶみたいなんが原因でこのような喧嘩になった思うてんのかい。いい加減にしなはれ。甚平はんまぁぁぁあ! わての話しも聞いておくんなはれ。そら、確かに、この人が仕事から帰って来たとき、わて生の大根切ってました。いつもやったらこの人何も言わんと家に上がってくるのに、なんじゃ今日は上がりが遅い。ぼーっと見渡してんかいな思うたら、障子の下の桟(さん)シューッと撫でて、この埃を見て、聞こえるか聞こえんかの小さい声で、せやけどわてにはよう聞こえるように、「汚いなあ」って。こんな嫌味な言い方ありますか? そうでっしゃろ。汚れてんやったら、おい汚い掃除しとけ言うてくれたら、わてもえらいすいません。黙って掃除しまんね? せやのにそんな嫌味な言い方されて、わてカチンと来ましたんけどな、あかん。こんなことで腹立ったらあかんと思って、また黙って大根切ってましたんや。ほな今度、なにすんのかいなあと思うたら、わての後ろにボーッと立って、また最前と同じように、聞こえる聞こえんかぐらいの小さい
    声で、せやけどわてにはよう聞こえるように。「飯まだみたいやなあ」って。まだなん分かってまっしゃろ? わてまだ生の大根切ってまんねんさかいに、せやのにそんな嫌味な言い方されて、わてかて毎日遊んねんでおまへんねんやで。家の用事はせんならん。子供の面倒はみんならん。それかて内職は溜まってる! わての方が嫁はん欲しいぐらいのもん! せやのに、そんな嫌味な言い方されたらほんまに、これわてやさかい辛抱しましたけどな、世間の普通の嫁はんやったら持ってた包丁で! どてっ腹ぶす!!
    甚平:こらこらこらこらこら。分かった分かった落ち着けちゅうねん。ほいでほいで、話しの続き言うてみい続き。
    お先:ほいでね! この人風呂行ってくるわ言うさかい、それやったら子供も一緒に連れてってたってんかって頼みましたんや。それやのに、この人、さも嫌そうな顔して「ええ、またかいな」よそさんの子やあるまいし、我が子ぐらい機嫌よう風呂連れたってくれたらいいのに、またかいな言うたあげく、この人なに言うたと思います? 「風呂連れたっての構わんけども、それやったら煙草銭くれるか」甚平はん。ここんとこどない思いはります? どこぞの世界に我が子風呂連れてくのに駄賃ねだる親がいてまっか!! そうでっしゃろ。苦しい所帯一所懸命やりくりしてほんまにもう! あかん! 死んだらええ博打に手え出してんの!!
    甚平:こらこらこら、煙草銭ぐらいやったらええやないか。
    お先:せやさかいにやりましたよ。そしたらこの人、わてが最前頼んどいた弁当箱、わたいの上にぶんって放り投げて、「梅干し飽きたから塩こぶにしてくれるか」ってわてそれ聞いて、あ、あぁぁ! 思い出してきたわ腹立ってきたわいやほんま! 甚平はん、わてにとって大事なところだんねん。よう聞いとってくんなはれ。わて近所のお年寄りに聞きましたんや。梅干しは身体にええって。せやさかい、この男のために、一所懸命漬けたんです。梅干し。あれ手間でっせ。蔕とんのに四日もかかって、ようよう出来上がった梅干し。飽きたさかい塩こぶにしてくれるか言われた途端に今まで腹の中溜まってたもんが一気にふりだしてもうて、ほんま何を言うてんねん!! って言うてしもうたんですやない。わてのこの気持ち、分かってくれまっしゃろ?
    甚平:はぁ、もっぺん言うてみというまでにはそんなに長い歴史があったんや。お先さん、あんたに非はない。あんたの変わりにこの男にわしが言うたるさかい。黙っていらんこといいなや。黙っとけええな。徳さん、そこに座り直せ。聞いてたか今の嫁はんの話し。えぇ? 健気やないかい。みなお前の事を思ってくれてんねや。梅干しぐらい機嫌よく食べたらどうや。何しとんねんお前。何ぼっとしてんねん。なに下唇噛んどんねん。えぇ? あんまり、勝手な事ばかり抜かすさかいに、腹立って唇噛んでます? なんやお前も言いたいことあんのか? あんのやったら言うたらええやないか。夫婦間のこっちゃないか。さあ、わしがおるだけや。貯めてたらいかん。腹に思ったこと全部言うてしまい。
    八公:それやったら言わせてもらいまっけどね、こいつは、ちょいまち、もーう聞いておくんなはれ。わてね、仕事から帰って来ました。ほな、家の中にが埃っぽいんですよね。ほいで、障子の桟(さん)を人差し指でスッとやると、これが埃ですよ。せやさかいね、わたいは見たまんま、思ったまま、ありのまま素直に、あっ汚いなあ言いましてん。これ嫌味でっか。違いまんがな。これわたいが埃を見て、ああ綺麗なあ言うたら嫌味でっせあんた。そうでっしゃろ。埃見て綺麗言うたら嫌味でっせ。見たまんま、ありのまま素直に汚いなあ。嫌味なんでもおまへん。そうでっしゃろ。えぇ? 同じように大根切ってるのも、これも見たまんま、思ったまま、ありのまま素直に飯まだみたいやなあ。これ嫌味でっか。嫌味ちゃいまんがな。これがでっせ生の大根つまんで、ああもう食べれるわ。これ嫌味でっせあんた。見たまんま、思ったまま、ありのまま素直に飯まだみたいやなあ。こんな嫌味言われてみなはれ。夫婦の会話ちゅうのはできやしまへんやろ。そうでっしゃろ。ほいでね、風呂行ってくるわって
    子供も一緒に連れたってくれんかって、意図も簡単にあっさりと。甚平はん、あんたもよう知ってまっしゃろ家にはね、七つ頭に子供が八人いてまんねん! あんなもんいっぺんに風呂連れてみなはれ、晩飯までに済むちゅう、そんな生易しい仕事やあらへん。二時間三時間すぐに経ってしまいまんねん。この間もあんた空きっ腹でこんなことしたもんやさかい、わて案の定風呂屋でふらーっとなって、倒れそうになったんですよ。それでも、それでも、それでも、五回に三回は風呂屋にわて連れてまんねん。煙草銭ぐらいねだったってバチ当たりゃしませんやろ。なんです? 博打? そんな大層な話やおまへんがな。風呂の帰りにちょっとちんちくりん行くぐらいのもんですやないかい! えぇ? 梅干し? 梅干し! ああ! 思い出してきたわ!! 腹立ってきたわ!! わたいにとってもここ一番大事なとこなんでん、よう聞いとってくれ!! わたい梅干し、決して梅干し嫌いやおまへん。どっちか言うたら好きでし「た!!」 日にいっぺんぐらいのことやったら、弁当のおかずに入れるぐらいのこ
    とやったら、文句も何も言わずに喜んで頂きますけどね、そんな生易しい話やあらへん。毎日毎日朝昼晩。三度三度梅干しばっかり。こんなもん録な嫁はんやおまへんけど、梅干し料理させたら日本一です。はい。梅干しの焼いたんに、梅干しの炊いたんに、梅干しの吸い物なんてんものまでありまんねんで。この間なんか弁当箱の蓋開けたら、白ご飯の上にほぐした梅干しでアホやて馬鹿にさらしやがって。近頃は甚平はん。梅干しどころの騒ぎやおまへん。わてね、梅ノ木見ただけで唾沸いてきまんねんで。せやさかい、梅干しを塩こぶにしてくれんかって、このわての気持ち! 分かってもらえまっしゃろ。うぇえええええ……(泣く)
    甚平:分かった分かった。泣きな泣きな。分かった分かった。お前の話しは分かった。お前ら仲がええねんな。しかしいかんのがお互い思うてること直ぐ口に出してしまう。売り言葉に買い言葉。これで喧嘩になんねん。分かった分かった。涙拭け。ちょいちょい静かにせえ。ちょっとわしの話しも聞いてんか。いや、これはな、人から聞いた話やさかいに嘘かほんまか知らんけど、なんでもこの世の中には堪忍袋ちゅうもんがあんねやて。お先さん、あんたの頭にかかったその手拭い。そんなもんでもいい。そんなんで袋をこしらえるんやて。ただしこれは誰にでも出来るもんやない。腹立ってることムカついてることを積めた人が一所懸命心を込めてこしらえるっちゅうと、そうやな、千回に一回、万回に一回の割合でその袋が出来る。その袋に腹立ったことをわーっと言うて、紐でキュッと閉めるというと、えへへと言うて済ませると。こういうこっちゃ。あくまで人から聞いた話やさかい嘘かほんまか知らんけどもや。えぇ? お前らいっぺんその堪忍袋ちゅうのこしらえてみたらどないや。えぇ?
    大きな声で格好の悪い。仲ようすんねんで。分かったな。わしはもうこれで帰るさかいな、ほな失礼するで。
    八公:あい、あいあい。もうもうもうしまへん。えらいすんまへんでした。どうも、はいはい。へっへっへっへっ。そこにおれお前は! 甚平はんがわざわざ来てくれたんや茶ぐらい一杯だせこいつはほんまに。お前、今教えてくれた堪忍袋ちゅうのか。早く縫え!
    お先:偉そうに言うな!! あんたにやいやい言われんかってな、もうその堪忍袋ちゅうの縫ってます。アホかほんま。勝手なことばっか抜かしやがって。あんたがそんなやいやい言うんやったらな、わてがここ嫁に来る前、あんたがわてに言うたこと全部言うたろか。忘れたとは言わせへんで。ほんまに。わての奉公先に出入りの職人として来てて、昼飯のときに茶入れたった。たったそれだけのことで勘違いさらしやがって。「お前の気持ちは分かってる。俺の目見ただけですぐに俺に惚れてるって分かったわ」わてを横手の蔵に連れ込んでな。「お前、家に嫁に来てくれ。惚れてんのやろ。」ほんでもじもじもじもじしてたら、「恥ずかしがらんでもええがな。」 嫌がってたんじゃアホ!! そんなこと分からんと勝手に勘違いさらしやがって。「家に嫁に来てくれ。お前が嫁に来てくれたら何にもせんでええ。なっ。座ってるだけでええさかい、なっ、家に嫁に来てくれ。お前が嫁に来てくれな、俺は死ぬー!!」 言うて、あんとき死んでたら良かったんや!!
    八公:やかましはよ縫えや!
    お先:縫えたわ! アホかほんま!! もしもこれが堪忍袋なってたらな、思ってること全部言うてすっきりしたんねん。アホかほんま。そっち向いとれ。はぁっはぁっはぁっ、ブクブクブクブク肥えやがって。一週間のうち五日も家でごろごろーごろごろ寝転びやがって。そんな暇があるんやったら、仕事見つけてちょっとはちょっとは、働けえええぇ!! シュッ。へっへっへっへっ。
    八公:お前なに笑うとんねん。それ。堪忍袋ですっとしたんか。アホ貸せアホ。お前だけやんか。俺のほうがもっと。ようしそっち向いとれ。やいやいアホほんまに。わしより四つ年上や思うたら偉そうにさらしやがって。豚の貯金箱に貯めてた大事な小銭割って散財しやがって。年上が年寄りがそないに偉いかあああぁぁー!! シュッ。へっへっへっへっ。
    お先:笑うとるわ。腹立つわ。こっち貸せアホ! あんたの笑顔が一番腹立つんやほんま。そっち向いとれアホ。ブクブク無駄に肥えやがって。四方八方どっから見ても同じ格好さらしやがって。歯磨いたらおえーっおえーっえづいてからに。お前はブタかー!!
    わたくしが日頃家で言われてることを入れながらの話で御座いました。すっとしました。有り難う御座います。こういう具合にこの堪忍袋が出来上がります。そうなりますと、噂を聞き付けましてあちこちから借りに来るもんですから。またそれを借すもんですから、とうとうこの袋ぱんぱんに膨れあがってしまいまして。
    お先:あんたえらいこっちゃどうしましょ。
    八公:何をしとんねんお前は。えぇ?
    お先:これ仰山の人に貸したさかい、ぱんぱんに膨れて重たい。
    八公:ええがな。横手の川で流してきたらええやないかい。
    お先:あんた考えてみなはれや。上手いこと流れてくれたらええけども、家だけの不満とちゃいまんねやで。色んな人のが入ってまんねやで。こんなものひっくり返したらやかましくて寝てられしませんがな。
    八公:ほんまやなあ。まあええがな。ほんなら置いといて、甚平はんに聞いたらええがな。もう仲直りしたんやさかいに大人しい仲よう寝よか。
    トントントン(戸を叩く)
    お花:こんばんはちょっとお開け。
    トントントン(戸を叩く)
    お花:こんばんは。
    八公:へいへい誰ですか。へいへいちょっと待っておくんなはれ。おう、誰やと思うたら隣町の伊勢屋のお花さん。なんだんねんこんな夜おそうに。
    お花:夜分にすみません。ちょっとお願いしたいことがあってやって参りました。あの、こちらにある、堪忍袋というものを貸して頂きとうございます。
    八公:堪忍袋? おますけども、いやいや、あんたあの袋どんな袋か知ってますんかいな。ありゃね、わてらみたいな貧乏人が腹立ったことムカついたことわーっと言うて、すきっとするもんでっせ? お宅らみたいな人が何の不満たまることおまんねんな。そうでっしゃろ? 夫婦仲上手いこといってて、子宝にも恵まれて、商売は繁盛している。おまけに姑との仲も繁盛してると聞いとりまっせ? お宅らみたいな人でも、不満に思うことおまんの?
    お花:ええ、お恥ずかしながらほんの些細な事で御座いますので、よろしゅうお願い致します。
    八公:些細な事でっか? ちょっと待ってて、えろうね、確かね、入れるとこおまんねんけどね。仰山の人に貸しましてぱんぱんでんねん。ちょっと待っておくんなはれや。ああ、些細な事でっか。ほな、ここ、どこぞの隅に入りまっしゃろ。よろしい。あんた最後に使いなはれ。
    お花:まぁ、有り難う御座います。助かります。えらいすんません。直に済みますので。えらい助かります。些細な事で、えらいすいません。おっほっほっほっ。糞婆死ねー!!!!
    八公:あんた何処が些細でんねや。物凄いの溜まってましたんやな。
    元:おう、いてるか。
    八公:今日は仰山人が来る日やな。どないしたっちゅうねん。
    元:えらいこっちゃで。隣町の伊勢屋の姑。目え白黒させて死にかけとんねん。どうにもな、嫁と上手くいかなんだんやて。言いたいことが言えんと。あんたお花! なにしてまんねんお宅! 姑えらい。(手を叩く)あんたも借りに来ましたんやな。よろしい。よろしい。わてが持ってってあげますさかい、姑とこ戻って。いきないいきない。そうじゃ、ちょっとその堪忍袋貸して。
    八公:いや、無理や。ちょっと前までなら貸してあげれたんやけどな、今物凄いのが入ったからに。
    元:何を言うとんねん。おばんの命がかかっとんねん。こっち貸してんか。
    持って帰りまして。
    元:おばん、苦しいか? しんどいか? アホやなほんまにもう。思うてる言葉貯めてたらあかん。貯めてるさかいそんなことなんねん。なっ、堪忍袋ちゅうの借りてきたさかいにこの中にぶちまけてしまい。
    渡そうとしたんですが、さっきも言いました通りこの袋ぱんぱんに膨れあがっていますから、とうとうこの堪忍袋の緒がぷつーんと切れてしまいまして、一番最後に入れましたこの糞婆死ねー! この言葉聞いて、おばん元気になりよった。

    桂文三師匠の堪忍袋を文章化。
    聞き取れなかったところがあったので、そこはそれらしく書いている。
    これをベースに改変作業に入る。
    三遊亭竜楽師匠の堪忍袋を文章化した。

    喧嘩するほど仲が良いなんてえことを言いますがね、長屋の夫婦喧嘩なんてえのは凄まじいもんで。大抵、そういうとき間に入って苦労するのが大家さんと相場が決まっております。
    八公:殺すなら殺せええぇぇ! 殺さなくっても殺せええぇぇぇ!!
    大家:また始めやがった冗談じゃないなあいつら。なんべんやりゃ気が済むんだ。おうおう、いけないいけない。な、何をしてんだ。おい、八公、八公。お前その金槌を下ろせ金槌を。お先さん。ノコギリを引っ込めろ。いくら大工の家だからってかみさんがこんなもの持ち出しちゃいけないよ。あぁ、しかし呆れかえったもんだな。いつにも増して酷いね今日は。どういうことでこの騒ぎが持ち上がったんだ。まぁいいから、泣いてばかりいないで、この襟元合わせなよ。目のやり場に困るじゃないか。おい、八公。お前も座ってな。この喧嘩の元。どういうことで起こったか。その訳を話してみろ。
    八公:そらねえ、これだけのことを騒ぎするんだい。喧嘩の元があるに決まってらあ。喧嘩の元ってえのはね、元はね、おい、元なんだっけ?
    お先:なんだっけだって冗談じゃない。大家さん聞きました? この男はこういう人間ですよ。これだけの騒ぎを起こしといて喧嘩の元がなんだっけって、そんな言い種あるかい!
    八公:しょうがねえじゃねえか。出てこねえもんは。だったらてめえが言え。
    お先:そんなことこっちも忘れちまってんだい。
    八公:なんだとこの野郎。
    大家:おいおいおい、いい加減にしておくれよ。もうやになっちまったなあ。おい、八公。お前もな、一家の主なんだ少し落ち着いて考えてみたらどうだい。
    八公:だからね、あっしがいつも色々、考えようと思うときにこの野郎がぐずぐず抜かすから話しがおかしくなるんだよ。だからなんでございますよ。喧嘩ってえのはあっしかこの家けえってきたそれで始まったんだい。へえるとね、この野郎が台所で生の大根刻んでやがった。だから飯はまだかと思ったから、湯に行ってくる。そうだ、それを言ったらこの野郎が弁当箱出しておいてくれ。洗わなきゃしょうがねえからね。出しましたよ。(間を空けて)思い出したい。弁当箱を出したときだ。そんときにあっしが、梅干し飽きたから沢庵にしてくれ。こう言ったんだよ。そしたらこの野郎が、親の仇に出くわしたかのような顔しやがって、何もういっぺん言ってみろ! 男をあっしが言ったんじゃねえんだ。この野郎がぬかしたんだ。てめえこそもういっぺん言ってみろと言いたくなるでしょ。これでもってこの喧嘩が始まったんですよ。だから、喧嘩の元をはっきり言えば、沢庵です。
    大家:馬鹿馬鹿しいよ本当に呆れかえったもんだな。沢庵ぐらいのことでこの大舘回りかよ。お先さん、お前もそうだよ。亭主が沢庵食べたいと言ったらそれぐらいのものやったらどうだい。
    お先:大家さん……大家さん! あたしね、沢庵の一枚や二枚でこんな騒ぎを起こす女じゃありませんよ。これにはね、もっともっと深い訳があるんです。
    大家:ああ、そうかい。お前の方で言い分があるというなら聞いてやろう。なんだ。
    お先:ですから、この人が帰ってきたときあたしが、台所で、生の大根刻んでた。それはその通りですよ。この人なんだかね、離れで辺りを見渡している。それから障子のさんのとこじーっと見て、指先ですっとやって、そのほこりの付いた指先を見て、あたしに聞こえるか聞こえないような声でもって、きたねえなぁ。こう言ったんです。こんな嫌味な言い方あります? 男ならきたねえから掃除をしろ。一言いえばいいじゃないですか。それをあたしに聞こえるか聞こえないような小さい声で、それでもしっかり聞こえる声で。きたねえ。あたしカチンときたんです。だけど、そんなことで怒っちゃいけない。あたしね、生の大根刻んでたんです。そうしたら、今度はあたしのやってること肩越しに見て、また聞こえるか聞こえないような声で。飯まだみてえだなぁ。まだに決まってるじゃありませんか。生の大根で何が料理なんです? 分かりきったことでしょそんな嫌味な事を言われて、それでもあたし我慢しました。そしたら今度はこの人が湯に行ってくるってそういうから、あたしはとっても丁寧に、それじゃあ子供も連れてって頂戴。お願いしたんです。そしたらこの人、さも嫌そうな顔をして、またかよ。よそ様の子じゃないんですよ。我が子です。それを湯に連れて行くのにまたかよ。それだけならまだ許せる。それじゃ、連れて行くから幾らか小遣いまわしてくれ。何処の世界に我が子を湯に連れて行くのに料金取る親がいる。なんです。梅干しと沢庵。これが一番大事なところなんです。じっくり聞いて頂戴。あたしね、隣の海苔屋の婆さんに梅干しが身体に良いって聴いたんです。ですからこの人のことを思って一所懸命に漬けました。世の中なにが大変って梅干し漬けるぐらい大変な事ない。蔕とるだけで3日掛かりました。それでもこの人のためと思って苦労して、漬けた梅干しが飽きたから沢庵にしてくれと言われたとき、あたし今まで抑えていたものがいっぺんに弾けて、何もういっぺんに言ってみろ!! つい、出たんです。だけど、こう言いたくなるあたしの気持ちを大家さんなら分かって下さいますでしょ?
    大家:いや、話しというものは聞いてみないと分からない。もういっぺん言ってみろまでそれほどまで歴史があったとは。八公、今の女房の台詞を聞いたか。お前の事を思って一所懸命だ。なぜそれに応えてやることができない。なんだ。真っ青な顔をして唇噛んで。こっから血が流れてるじゃないか。あんまり勝手な事を言うもんで、腹が立つのを通り越した。じゃあ、何か。お前、今の女房の言ったことをそっくり聞いた上でまだ言い分があるというのか。へぇ、これは面白いな。これっぱかりもあるもんなら言ってみろ。
    八公:これっぱかりどころの騒ぎじゃねえ。たっぷり聞いてくれ。あっしがけえってきたそんときにかかあが生の大根刻んでたそれはその通りだ。けえってきたら家の中がなんとなく埃っぽいんだ。考えもしねえで俺は障子のさんのとこに目がいっちまったんだ。指先すーっと思わずやっちまった。先を見たら埃が付いてる。それを見てきたねえな。これが嫌味かい? 指先に埃が付いてるのを見てきたねえな。素直じゃねえかよ。嫌味というのは、指先を見て綺麗だなぁ。これが嫌味だ。その後もそうだ。肩越しに見たらかかあが生の大根刻んでるから、あっ、飯はまだみてえだなって芯から思ったからそのまま口に出した。それを肩越しに俺がかかあの切ってる大根つまんで、かかあに向かって、あぁちょうど食べ頃だなぁ。これが嫌味だ。そんなこと一々な。言われたら夫婦の話し何一つできねんだよ。じゃあしょうがねえや。飯がまだみてえだから湯に行ってくる。そう言ったい。そしたらこの野郎が、意図も簡単にあっさりと。それじゃあ子供も連れてって頂戴。大家さん知ってるだろ。あっしんところは八つ頭に子供九人いる。それ纏めて湯に連れてってごらんなさい。晩飯どころか夜食にも間に合わねんだい。この間俺は空きっ腹にそんなことしたもんだから、湯殿で倒れて戸板で運び出されたんだい。それでも十日間のうち三日はあっしが連れて行くんだ。小遣いぐらいねだったってバチは当たらねえでしょ。梅干しと沢庵。それが一番肝心。よーく聞いてもらいてえ。大家さんのめえだがな。あっしは決して梅干しがきれえじゃねえ。どっちかと言うと好きな方だ。日にいっぺんぐれえなら。くる日もくる日も朝昼晩朝昼晩、梅干しだらけ。昼のおやつから晩酌のつまみまで梅干しが出てくる。この野郎、録な女じゃありませんがねえ。梅干しの料理させたら日本一だ。梅干しの焼いたに梅干しの炊いたん。梅干しの混ぜご飯。梅干しの天ぷら。梅干しの唐揚げ。梅干しの肉転がし。梅干しの吸い物。梅干しの酢の物。この間なんか梅干しの一夜干しって訳のわかんねえもんだした。この間、一昨日弁当箱取ったら、家は日の丸じゃあねえ。赤旗弁当だ。白地がまるでねえんだ。梅ノ木見ただけで唾が沸いてくるんだ。梅干し飽きたから沢庵にしてくれてえあっしの気持ちを大家さんなら分かってくれるでしょうねえ。
    大家:ああ、俺が悪かった。お前は悪くない。いやいや、お先さんお前も悪くない。二人の話し聞いてたら訳が分からなくなっちまったなあ。まぁ、お前たちは仲が悪いんじゃない。仲が良すぎるんだよ。遠慮なく自分の想いを相手にぶつけちまう。それでもって揉め事が大きくなる。まぁ、世の中にはな、堪忍袋というものがあるそうだ。これはね、色んな器量を集めてきて、心を込めて一つの袋を縫い上げる。腹に貯まった不平不満をその中に言って、緒をきゅっと閉めると胸がすっとして喧嘩もなく仲良く暮らせるというんだな。まぁ、そんなものはなかなか出来るもんじゃあないそうだが、試みでもやってみたらどうだい。また何かあったら来るがね。程々にしておくれよ。
    八公:どうも、ありがとうございした。すいませんでした。おい、客が来たら茶ぐれえ入れろ。
    お先:茶碗をお前さんが割ったんだろ。
    八公:土瓶はてめえが割ったんじゃねえか。掃除をしろ。
    お先:あたしは忙しいんだよ。これから堪忍袋縫うんだから。
    八公:縫え。心を込めて縫え。もしてめえに心なんてものがあったらの話しだがな。
    お先:ほら、ちゃんと出来たよ。
    八公:なぁにが出来ただ。使ってみなきゃわかんねえんだよ。貸してみろ。いつもいつも忙しい忙しいばかり言いやがって。そのくせいっぺん座ったらピクリとも動かねえ。てめえは穴に根でも生えてのかー!!
    お先:なにいい顔してんのよ。貸してちょうだい。言いたいことがあるんだから山程。文句があるならその分稼いでこーい! こっちは嫁に来たくて来たわけじゃないんだー! あたしの奉公先に出入りの職人で来て、そんときおまえが口説いたんだろー!
    八公:寄越せ。あれはおめが先に色目使ったんじゃねえかー! 昼飯のたんびに俺だけ沢庵にめえ余計に寄越しただろー! その沢庵が何で今だせねー!
    お先:あれは勘定間違えたんだよー! それを勘違いしやがって。蔵の脇に呼び出してなんつった。俺と一緒になってくれ。なってくれなきゃ俺は死ぬー! あんときに死んじまえば良かったんだー!
    八公:揉めないな。
    お先:揉めないね。
    八公:ああ、じゃあ堪忍袋出来たのかもしれねえな。
    滅多に出来るはずのない堪忍袋が上手いこと出来上がったとみえまして、夫婦仲の悪かった二人がもう不平不満をみんなその中に言うもんですから、仲良く暮らして、その噂が広まったもんですから、方々から今度は堪忍袋を借りに来る人が山ほど集まってきて、もうぱんぱんになった。
    八公:あぁあぁあ。えらいことになっちまったな。こら。どっか捨てに行くか。
    お先:そうはいかないよ。世間に言えないことがはいってんだからさ。大家さんなんかに相談した方がいいよ。
    八公:それもそうだな。どっかに行く前にやっぱり大家さんか。
    女将:ごめんくださいまし。ごめんくださいまし。
    八公:へいへい。どちら様?
    女将:隣町の伊勢屋でございますが。
    八公:伊勢屋の女将さん? おお、こりゃどうぞどうぞ。
    女将:夜分誠に失礼いたします。こちら様に堪忍袋というものがあるそうで。是非お借りしたいんでございます。
    八公:あなたが? いや、要らないでしょ。お宅悪い噂一つも聴いたことないよ? 姑さんと上手くいってて、夫婦仲良くて、もうお子さんもすくすく成長。ご商売は大繁盛。それでも何かあるんですか?
    女将:誠にお恥ずかしいことでございますが、ほんの少々ありまして。
    八公:まぁ、少々でしょうね。お宅は。でも大丈夫かなぁ。今こういう有り様なんですよ。まぁでもお宅の僅かな不平不満なら大丈夫でしょう。まぁまぁどうぞお使い下さい。
    女将:有り難う御座います。それではほんの端のちょっと拝借させて頂きます。おほんっ。糞婆死ねええぇぇぇ!!
    八公:見掛けによらず溜まってましたねぇ。今下の方がミリッと言ったよ。
    元:おう、いるかい!
    八公:誰だ誰だ。
    元:俺だ。
    八公:おう元ちゃんか上がれ上がれ。どうしたい。
    元:どうもこうもねえんだよ。えれえこと起きたんだよ。隣町の伊勢屋。えっ、女将さんそこにいたんすか。大変だよ。お宅の姑さんひっくり返っちゃってね、医者に担ぎ込んだんだけど、なんだか胸に溜まった何かがある。これを吐き出させないと命に関わるってんだよ。それで思い付いたのが堪忍袋だよ。すまねえが貸してくんねえか。
    八公:あぁ、これ。やめた方がいいなぁ。いや、さっきまで隙間があったんだけどね、今大きいのがズシンと入っちゃって。
    元:いいじゃねえか。人助けなんだから貸してくれよ。
    引ったくるように受けとりまして、これをずるずるずるずる引きずってお婆ちゃんの枕元。
    元:ようやく持って来ましたよお婆ちゃん。この中に何でも言って下さい。
    出した途端、ぱんぱんに膨れあがっていた堪忍袋が我慢できなくなったとみえまして、この緒がぷつーんと切れた。先程入れたばかりの一番新鮮な糞婆死ねー! てえのが飛び出した。それを聞いてお婆ちゃんいっぺんに元気になりました。


    明日には上方の方の堪忍袋を文章に起こそうと思う。
    上方の方が私の性に合っていたので、上方のものをベースに直していきたいと思う。
    時間はだいたい20分程度。崇徳院の30分に比べれば楽だが、声を張り上げる所が多々あるため、かなり喉にくるだろう。
    やっとこさ全部暗記して最後まで通すことができた。
    録音場所は何処かの橋の下。
    道路橋の下で、結構広く、周りに迷惑も掛からず、ベンチも置いてある場所を見つけたので、これから稽古が捗る。
    案の定、最後の方はぐだぐだとしてしまっているが、それなりには出来ているのではないかと思う。
    勿論、まだ上手く出来ていないところが多々あるが、こういった感じの落語というのは表現できてはいるのではないだろうか。

    崇徳院:29分51秒

    とりあえずは、もう少し崇徳院を稽古して、出来ていないところを修正する。
    ほんで、室内かカラオケボックスにて雑音の少ない状態で、上手くいった状態のものを録音して、もう一度アップする予定。
    それが終わり次第、前座噺を稽古することに移行して、幾つか覚えた暁には、何処かの老人ホームなんかにてやらせて下さいとお願いして、人前でやってみる予定。

    私には才能があるのだろうか。それこそ、落語家になれる程に。自分じゃ劣っているところ、足りていないところは何処かということしか見えないから、自分に才能があるかどうかは分からない。もしも才能の欠片でもあるならば、今からでも遅くない。何処かへ弟子入りして目指すことも考える。
    んー、もうちょっと他の噺もやってみないと分かんねえな。

    寿限無と松竹梅と三年目もほこりを払って、もう一度出来るように稽古しておこう。
    赤い部屋とバールのようなものはありゃダメだ。やらなさ過ぎてもう忘れた。道具屋も昔やってたが、あれもちょっと酷い出来だったから一から覚え直しになるから置いておく。

    まだまだやることはいっぱいある。
    なすべきことは無数にあるが なしえたものはまだなにもない
    平日だからブログ更新しないと思った? 残念でした!! アップもあるよ!!

    というわけで、つい先日録音しておいたものを公開する。

    終盤のクライマックスの直前まで。

    噛んだり、詰まったりしているのは稽古を重ねることでどうにかなると思う。そう信じたい。
    例によって大声を出すところは意図的に小さくしている。近所迷惑になるので。
    瀬をはやみーと叫ぶ部分は完全に音調を失敗した。枝雀音調にするか、志ん朝音調にするか迷いながらやったら中途半端なものになってしまった。次からは枝雀音調でやる予定。そっちの方が叫びやすい。
    最後までやらなかったのは、まだ最後の頭のテンポよくタターンと喋り通す台詞が頭にくっきりと刻まれておらず、詰まりながらじゃないと出来ないから。そこを過ぎればあとはもう覚えているので、今週末には最後まで通したものをアップすることができるはず。

    いや、もう少しで最後までやれるんだから、最後まで出来たものをアップしようと思っていたのだが、私のipodが死亡なさって、その腹いせにこのブログを更新することになったため、もうアップしちまえよってことでアップした。ええ、八つ当たりです。

    八つ当たりで落語をアップするというのはこれは新しいのではないだろうか。まぁ、別に誰が聴くっていうわけじゃないんだけどね。別に、誰が聴くってわけじゃないんだけどね・・・(チラッと見ながら

    全部覚えた暁には、最初からまた問題点を一つ一つ音源に合わせて変えていくつもり。
    もっと感情をつけた口調にしなきゃいけないところがあったり、間を変えるべき部分があったりするので、そこら辺もしっかりやらなきゃなんねえ。
    なにより、台詞がスッと出てこないで言葉の始めに軽く「エェ」を付けている部分を無くしたい。

    いやぁ、まだまだ時間がかかりそうだ。
    もうそろそろ何処かの女性団体が生理痛の痛みを男性にも味あわせるために、生理痛を男性にも引き起こす薬を開発するのではないかと考えながら数年の月日が経ちました。私が思っていたよりも世界は悪意に満ちてないのではないかと考え直している今日この頃、皆様どうお過ごしてでしょうか。

    だいたい河川敷で練習するもんで、もう肌が焼けに焼けている。真っ黒。そろそろ夏が本格的になるから練習場所を変えないと、熱中症で倒れてしまう可能性がある。日蔭があって周りに迷惑をかけないとこってなると、橋の下なんかになるんだけども、近場だと既に先客がいるんだよね。ホームレス。今度誰もいないところを見つけよう。

    休日の落語の方は、録音したけども30分近くもあるゴミをアップする勇気がなく、削除したためない。
    もう全部覚えて通してやってはいるが、後半の出来が酷い酷い。もうちょっと練っていかないととても聴かせられるものじゃない。特に頭がまるで出来ちゃいねぇ。威勢の良いキャラって難しいね。
    素人の落語でさらに下手ってんだから手のつけようがない。やっぱり上手くなるには基本から一歩一歩やっていくしかないねえ。いきなり大ネタに挑戦するもんじゃなかった。でもやりたかったから仕方ない。
    次は前座噺をやるから許してください。

    やっていてちょいと変更した点があるので書いておく。

    熊:うるせえ! ちくしょう。もうやだねえ。どうも。あぁー、なさけねえなどうも。あぁ、毎日毎日歩いてもう足が棒のようになっちゃたしなあ。これ下手するってえと若旦那より俺の方が先逝っちゃうかわかんねえ。大勢人が集まってやがる。こういうとこでやれって言ってたな。よし、せをはやみ岩にせかるる滝川のな。(息を大きく吸い込む) いや、なんでもねえ。なんでもねえ。気にしないでくだせえ。えぇ、えぇ。あぁ、驚いた。急に目が合うじゃら驚くじゃねえか。えぇ? 驚かせんじゃねえよ。ったく、えぇ? ふぅ、人がいると声が出ねえな。人がいねえとこ行こ。よし、誰もいねぇな。誰も聞いてねぇな。(大声で)せをはやみ!! 岩にせかるる滝川の!! せをはやみ!! 岩にせかるる滝川の!! だんだん上手になってきた!! せをはやみ!! 岩にせかるる滝川の!! いっぺえ子供がついて来たね、おい。菓子なんか売ってねえよったく、散れ散れ。(手を叩く)床屋に行けってそう言ってたな。床屋に入ってみよう、ね。うぅーっとー。えぇ、床屋さんですね。

                                 ↓

    熊:うるせえ! ちくしょう。もうやだねえ。どうも。あぁー、なさけねえなどうも。あぁ、毎日毎日歩いてもう足が棒のようになっちゃたしなあ。これ下手するってえと若旦那より俺の方が先逝っちゃうかわかんねえ。大勢人が集まってやがる。こういうとこでやれって言ってたな。よし、やってやるか。瀬をはやみ!! 岩にせかるる滝川のってんだちくしょうめ!! みんなこっち見てやがる。見世物じゃねえんだよ! こっちだって好きでやってんじゃねえんだよ!! ったくよぉ。瀬をはやみ!! 岩にせかるる滝川の!! 向こうから来る奴ら皆脇に避けてくね。あっ、おもしれえやこりゃ。瀬をはやみ!! 岩にせかるる滝川の!! だんだん上手になってきた!! 瀬をはやみ!! いっぺえ子供がついて来たね、おい。菓子なんか売ってないんだよ。ほら、帰った帰った。(手を叩く)床屋に行けってそう言ってたな。床屋に入ってみよう、ね。うぅーっとー。えぇ、床屋さんですね。


    熊:そうですか、どうも。ちょいとごめんなさい。ええ。えぇー、(一服し間を大きく取る) (急に大声で)せをはやみ!!!
    客:ああ、びっくりした。いきなりびっくりするじゃねえか。なんだいお前さん。
    熊:いやいやいや、気にしちゃ、気にしちゃいけません。えぇ。気にしちゃいけませんよ? せをはやみ 岩にせかるる滝川の
    客:もし、あなた。その崇徳院の歌が随分好きなようですな。
    熊:好きというわけじゃねえ。どっちかというと憎むべき歌ですよ。それにしても、よくこの歌聞いて崇徳院の歌って分かりましたね。
    客:そうなんですよ。崇徳院って人だっつってましたねえ。もうなにしろね。近頃どこで覚えてきたんですか娘がその歌ばかりやってますんでねえ。えぇ。
    熊:ちょ、どいどいどいて。どいてどいて。ちょっとちょっとあなた。あのお話がありますがね。あの、あなた娘さんがどうの
    客:ええ、娘がその歌が好きなんです。
    熊:これが……好き。そうですか……あの、娘さん、水が垂れますか?
    客:別に水は垂れませんですな。
    熊:そうですか。蜜柑を踏んずけたような
    客:蜜柑なんか踏んずけませんよ? この間なんか大副踏んずけておっかさんに怒られた
    熊:あの、いい女ですか?
    客:そらまあ、ええ、近所で鳶が鷹なんて噂してくれてますなあ。
    熊:そうですか。御幾つですか?
    客:八つです。
    熊:せをはやみー

                                 ↓

    熊:そうですか、どうも。ちょいとごめんなさい。ええ。えぇー、(一服し間を大きく取る) そろそろやるか……瀬をはやみー!!
    客:ああ、びっくりした。いきなりびっくりするじゃねえか。なんだいお前さん。
    熊:いやいやいや、気にしちゃ、気にしちゃいけません。えぇ。気にしちゃいけませんよ? 瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の
    客:もし、あなた。その崇徳院の歌が随分好きなようですな。
    熊:好きというわけじゃねえ。どっちかというと憎むべき歌ですよ。それにしても、よくこの歌聞いて崇徳院の歌って分かりましたね。
    客:そうなんですよ。崇徳院って人だっつってましたねえ。もうなにしろね。近頃どこで覚えてきたんですか娘がその歌ばかりやってますんでねえ。えぇ。
    熊:そうですか。娘さんがやってる。へえ。娘さんが……やってる? ちょ、どいどいどいて。どいてどいて。ちょっとちょっとあなた。あのお話がありますがね。あの、今あなた娘さんがどうの
    客:ええ、娘がその歌が好きなんです。
    熊:これが……好き。そうですか……あの、娘さん、上野の清水さんに行かれませんでしたか?
    客:近所ですからなぁ。よく遊びに行きますよ。
    熊:遊びに……行く。そうですか……あの、水が垂れますか?
    客:別に水は垂れませんですな。
    熊:あの、いい女ですか?
    客:そらまあ、ええ、近所で鳶が鷹なんて噂してくれてますなあ。
    熊:鳶が……鷹……そうですか!! 御幾つですか?
    客:八つです。
    熊:せをはやみー

    今回の変更点は以上。
    頭の台詞のとこは前にも言っていたように短くする予定だがどう手を付けたもんだか。
    ここで長台詞やるのはどうしたって噺のテンポを崩しているから軽くサラッとやって流したいんだが。

    頭:えぇ? どうもこうもねえよ。騒ぎってえのは、お嬢さんが患っちゃってね。これが恋煩いってんだよ。ったく馬鹿馬鹿しいねえ? 御茶の稽古の帰りに清水の観音様にお参りして、それが終わってから掛け茶屋に入ってったら自分が座った目の前にね、どっかの若旦那風のいい男というのが座っている。もうそれでぽーっときちゃったらしいんだね。えぇ? それでもって立ち上がって出て行く。自分の膝の上に御乗っけておいたちゃぶくさってえのを落っこしたんだ。気がつかなかったんだけれども、それをそのいい男の若旦那ってえのが拾って届けてくれた。いい男ってのは何しても得なもんだい。うん、もうお嬢さん受け取るときにはね、ぶるっと震えてね、もう三日三晩震えが止まらなかったってんだ。ええ? あぁ、まあそれから帰って来てからてえものはとにかくね。なんにも喉を通らない。えぇ? もうこんなに細くなっちゃって。えぇ? もう大変な騒ぎ。ねえ、うん、なんとかして探さなくちゃいけない。それをなんとか見つけよ。若旦那だぞ。若旦那見つけるんだよ。見つけた者には褒美として百円やるからなーってんで。まぁ、百円に皆目が眩んじゃってさ。ええ? 出入りに女だって何だって皆もう眼の色変えてばーっと探して歩いてるんだが、江戸中探したってどうしても分からねえ。ただ良い男ってだけだからな。しょうがねえから、皆クジを引こうってんで、宗助さんなんぞ北海道が当たっちまって、可哀想に。今朝一番で行ったんだけどね。俺は東海道。しょうがねえんだよ。俺もなんとか見つけて、百円ありゃ助かるんだよ。えぇ?

    削ってもこれぐらいはやらなきゃならないよなぁ。サラッとやり過ぎてもまた味気ないしなぁ。
    まぁ、また演じてるうちに変えるとこ見つかるか。
    それじゃあ、本日はこの辺で。
    今回の落語は21分あるので、聴くのならばお覚悟を。

    崇徳院の後半手前まで

    事前練習なしの1発撮りだから出来栄えがあれだったのでアップロードしようか迷ったが、これアップしないとブログ更新する内容がないので、アップすることにした。

    前半部分はほぼ私の理想とする感じに出来ている。テンポも声もいい感じ(自画自賛)
    ただし初っ端の「おい」を失敗している。もっとはっきりと通る声じゃねえとなぁ。
    大声を出すところは近隣を気にして小さくしているので、失敗しているわけではない。
    プフーッは完全に失敗した。ここはもっと練習しておこう。
    問題は中盤以降。特に2回目の大旦那とのやり取りのところが安定感を欠ける。声の切り替えが上手くいっていない部分や、テンポを崩している部分がある。
    おかみさんの声は自分で言うことじゃないけれど、上手いと思う。自分でもかなりやりやすい声だ。
    女性の声が得意なので、廊噺を覚えようかと思ったが、廊噺って大ネタしかないから、手を出しづらい。紺屋高尾・・・? 文章化もしているし、終盤までだいたい覚えてるからやってもいいけど、崇徳院とネタが被ってます。本当にありがとうございました。
    皿屋敷を覚えたいなぁとぼんやり思っているが、あれ効果音がないと魅力にかけるんだよね。私、友達も手伝いもいないからサイレントになっちゃう。
    次覚えてるとしたら、10分ぐらいでやる短い前座噺かなぁ。今できるのは寿限無と松竹梅だから、候補は道灌、やかん、千早振る、子ほめ、金明竹。もうこれ全部覚えちまうか。
    道灌は見習いのときに一番最初に教えられて稽古する噺として有名だから、まずはこれを覚えてみようかなぁ。でも前座噺なら一番千早振るが好きだから、これ覚えたいな。
    そういえば、昔覚えようとして途中まで覚えてそのまんまにしてしまった堪忍袋。あれどっかに文章化したのがあったな。あれもいいなあ。江戸の方じゃなくて上方のを言葉に変えてやったんだけど、大声出すところばかりで練習場所に困って放置してしまった。あれはインパクトがあって本当に良い噺だ。サゲだけはどうにかしないといけないが・・・よし、次は堪忍袋を覚え直そう。そうしよう。

    話がだいぶ脱線した。
    中盤以降のテンポは稽古を重ねることで改善できると思う。
    あとは終盤を覚えるだけ。あれ? これ先週も書いたような・・・。気のせいだね!
    この頃思うことは、やっぱり落語ってのは声が一番大事だなと。
    地声が悪いとどうしても噺にのめり込むことができない。その場面を思い浮かべることができない。
    よく通る滑舌の良い声でもって、演技力があり、声を幾つも使い分けることができる。どれが欠けても落語として致命的になる。欠けていることを逆手に取ることもできるが、それは色物みたいなもんだからねぇ。
    仕草は稽古でどうにかなるが、声っていうのは持って生まれたものだから、天性のものだから、声が良い人はもっと落語家になれよと思う。笑いのセンス? そんなものはどうにでもなる。

    私の声はというと、よく通らないそれほど滑舌の良くない声でもって、演技力だけはあり、声をちょっとは使い分けることができる声。
    うん、あれだね。なんというか、あれだね!
    熊さんと大旦那の声分けが上手くいっていなかったので、大旦那の声を変えてみた。

    再生時間:1分

    渋い雰囲気をイメージしたため、低いガラガラ声となったのだが、この声が実に喉にくる。
    喉に負担が大きいため、これでやり続けるのは如何なものかと思うのだが、これが実にしっくりとくる声なので、変更するには惜しい。ガラガラ声がやはり喉に悪いので、低い声だけを残せるようになんとかしてみようか。

    一応、5ページまではなんとか覚えた。あとは2ページ。
    短いが、本日はこの辺で。